地域の料飲関係団体と連携する東京の各区:コロナ感染防止の「日本モデル」を探る

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新型コロナの感染再拡大が懸念されているが、世界と比較すれば日本は「コロナ抑え込み」に十分成功している。最前線で「日本モデル」の対策構築にあたる東京都中央区などを取材した。

東京だけが「悪者」?

世界では欧州を中心に、新型コロナウィルス(COVID-19、以下「コロナ」)の感染再拡大が深刻化している。

日本でも再び感染防止への警戒感が強まりつつあるが、感染者数、死亡者数そのものは主要先進国と比較すると圧倒的に少なく、そのコロナ対策は「日本モデル」と言われているほど評価が高い。だがその一方で、日本人の「日本モデル」に対する評価は驚くほど低い。日本のメディアは、連日感染者数の拡大に焦点を当てて報じ、新規感染者数の多い東京は国内で「悪者扱い」されている状況だ。

地方の医療機関では、「家族に東京に行かれた方がいる場合、2週間は受診を避けてください」ということが普通に患者に伝えられ、「東京に行った」だけで、コロナに感染したというデマが飛び交う地域もある。

これは、コロナについて、メディアが正確に報じていない結果ではないかと思う。東京は確かに感染者再拡大の状況にあるが、各自治体レベルでは必死の取り組みを続け、うまく封じ込めている区もある。

隔離による「経済的リスク」軽減を

本稿を書いている最中にも、東京で新たに294人の感染が確認され、3日連続で200人を超えたというニュースが流れてきたが(11月7日)、東京都中央区の山本光昭保健所長は「このの数字だけを見て、恐れる必要はない」と断言する。同区は「中央区モデル」とも呼べる取り組みを行っており、一定の成果を出しているが、それはまた後述する。山本所長が感染者拡大の日々の数字に一喜一憂することがないとする根拠は、無症状や軽症者の割合の状況、死亡者数の状況とともに、発表される感染者数と陽性者数の実態も極めて不透明であることだという。

「疫学調査の限界でもありますが、陽性者が見つかると「初発」としているのですが、コロナは、陽性、陰性、再感染、また陰性を繰り返すウイルスです。無症状か軽症の方の場合は、本人が気づくことなく「陽性者」として感染を過去に広げていたことも想定しなくてはならないし、検体採取でミスをして『陰性』となっているケースも否定できない。つまり、一定数の偽陰性(見落とし)や偽陽性(ぬれぎぬ)が常に発生していると考えなくてはならないのです」

また、最初の感染者が報告された1月から2月下旬までの第1波と、3月以降の第2波では、陽性者に大きな違いがあるという。第1波の時は検査を「明らかな症状がある」人に限定していたが、第2波では、無症状の人にまで広げている。自覚症状がなければ、保健所から感染ルートをたどって電話がかかってきても陽性者にとってはうっとうしいだけだ。担当の保健師は「電話を着信拒否にされるだけでなく、自宅に行っても居留守を使われてしまう。本当の感染ルートの聞き取りが全くできないことも多い」と嘆く。

こうした人たちは、感染が判明してもホテルなどでの隔離生活に応じないという。個人事業主や、パート・アルバイトで生計を立てている低所得者層ほど、その傾向は強まる。それも致し方ないだろう。仮に10日間ホテルで休めば、その分の収入は入ってこないので、生活に直接響いてしまうからだ。国や自治体が、こうした人たちの経済的リスクを軽減してあげれば、各区の保健師の負担も減り、コロナのリスクを軽減に効果が出るのではないかと個人事業主である筆者も強く思う。そうすれば、日本モデルはより世界に誇れるものとなるはずだ。

CT検査で有効に重症度診断

11月10日現在、全世界のコロナ感染者数は5061万人、死亡者数は125万人に達している。感染者数は米国が最多で全体の約5分の1を占めており、拡大に歯止めがかからない状態だ。一方、日本の死亡者数は1700人にとどまっている。山本所長はこう話す。

「コロナ禍で重症化するリスクが高いのは、高齢者や糖尿、肥満病などの基礎疾患を持っている人です。日本は世界一高齢化の進んでいる社会であるにもかかわらず、この数字で抑えているのは、アメリカなどと異なり、医療格差が少ないことが大きい。わが国では貧富に関係なく公的医療保険に加入しており、それほど大差なく保険診療の治療を受けることができます。第1波で多くの技術的知見が得られたことも寄与しています」

日本の医療の質の高さ、アクセスの良さも、死亡者数が少ない要因であるが、改善の余地は依然としてあるとも聞く。いま日本では、政治家やメディアを中心に、「PCR検査」に異常なこだわりを見せているが、それはこのウイルスの本質を見誤らせる原因になっていることに他ならない。

通常の感染症の診断では、複数の検査を実施し、総合的な判断のもと、診断・治療を行うのが常である。

例えば2類感染症である結核の場合、血液検体検査だけでは分からないので、画像検査や喀痰献体検査などを行った末に「診断」に至り、結核の種類をみて、「隔離」という最終手段をとっている。
しかし、コロナに関しては、「PCR絶対主義」がはびこり、その手法で陽性を見つけることが目的にすらなっている風潮があるという声も聞く。重要なのは、陽性者を見つけて適切な治療をし、新たな感染者を増やさないことだろう。
では、どうすればいいのか。

「発症前2日から、発症後9日の濃厚接触者だけをチェックすればいいのです。というのも、発症から9日経っている人は、ウイルスの活性化が失われていて、14日経つと感染性がなくなる。春ごろは、『陰性』がなくなるまで退院させなかったけど、今は日数で判断して出している。しかし、PCRでは、不活化したウイルスであってもRNAの残骸で『陽性』として出てしまうこともある。一方、症状がある際は、PCR法、LAMP法、抗原検査などで陽性が出たら、唾液などの検体検査を行うだけでなく、重症化リスクを評価する意味でCT(コンピュータ断層診断装置)検査や血液マーカー検査なども行うのが望ましい」 と山本所長は強調する。

重症度を見るには、肺炎像でクリアに分かるし、それにはすりガラス様陰影のCTの画像が一番だというのだ。日本はCTが世界一普及しており、診断ミスも少ない。激しい炎症を起こしていれば、人工呼吸器やECMOなどで肺の機能を維持させ、ステロイド(デキサメタゾン)を注入するのが最も効果的であるということも分かってきた。治療にあたっての課題は現在、いかにステロイドの副作用を抑えるかに移っているというのだ。治療法が確立されつつあるのだから、引き続き、重症化リスクの高い高齢者などを感染リスクから守るとともに、感染そのものは恐れるものではなく、いかに早期に適切な治療につなげるかが死亡者の抑制につながるだろうと山本所長は見ている。現在、感染者数が急激に増えても死亡者が急激には増えていないのが証左である。

料飲組合の取り組みを区が支援

いま中央区では、感染拡大防止を目的に、料飲飲食組合などと協定を締結し、各団体が行う取り組みを支援する方向に大きく舵を切っている。

ひとつは、主体的な取り組みを行うシンボル(心構え)としてセーフティーマークを活用し、中央区の店舗の感染防止策が万全であることを内外に発信することだ。そのため、銀座料理飲食業組合連合会や日本橋料理飲食業組合など6カ所の組合と組んで、衛生管理と従業員の健康管理を徹底させることにした。

東京都ではガイドラインをつくり、それを守っていると店側が判断すれば、ステッカーを配布するという取り組みをしているが、日本橋料理飲食業組合ではさらに一歩進めて「換気」、「消毒」、「ディスタンス(距離)」などに分けて、出来ていると判断すれば貼っていくスタイルをとった。

中央区ではこうした取り組みを評価し、12月の補正で「コロナ対策のためなら各組合がどのような事業をしてもいい」とする予算を4800万円計上するという。これには「区長、区議会、役所の保険福祉部と広報グループ、それに保健所の連携が上手くいって初めて出来ること」と、他区の区議も注目している。

各組合の加入率は今、どこも10%以下だが、こうした取り組みを区が後押しすることで加入率が高まり、組合の力も強まる。そうすれば、今後何か対策を打とうとする際にも動きがとりやすくなる効果が期待できるという。

クラブやバー、居酒屋が多い銀座、新橋などが区域に入っている以上、今や感染防止が一番の課題である。

独自の対策モデル構築で試行錯誤

同じく、東洋一の歓楽街を抱える新宿区も頑張っている。歌舞伎町などには、濃厚接触を避け難いキャバクラ嬢などが足繁く通うホストクラブが数多くある。

そこで新宿区は6月頃から、事業者らと官民一体の「区繁華街新型コロナ対策連絡会」を発足させ、区役所や都の福祉保健局職員、ホストクラブの経営者約40人も巻き込む形で、感染者が出た場合は感染経路の調査を協力して行うことで合意した。匿名性の強い営業形態であり、店で感染者が出ても濃厚接触者の調査が得られにくいという課題を打ち破るため、行政が事業者と直接手を結んだ。

歌舞伎町のホストクラブなどに新型コロナウイルス対策を呼び掛けに回る新宿区の吉住健一区長(左から2人目)ら=2020年7月20日、東京都新宿区(時事)
歌舞伎町のホストクラブなどに新型コロナウイルス対策を呼び掛けに回る新宿区の吉住健一区長(左から2人目)ら=2020年7月20日、東京都新宿区(時事)

やはり歓楽街を持つ豊島区、飲食業の多い千代田区なども試行錯誤を重ね、区ごとで独自の対策モデルを作ろうと試みている。

こうした自治体の個々人レベルでの努力が、「日本モデル」の基盤になっており、依然として改善の余地はあるにしても、先進国の中でコロナ感染拡大を最小に食い止める一助になっているのだ。

バナー写真:営業を再開した銀座の「クラブ由美」で客に検温する店員=2020年6月19日、東京都中央区(時事)

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