Japan Data

ご近所に佐藤さん、上司は鈴木さん、ママ友に高橋さん : 日本人に多い名字(前編)

家族・家庭 文化 歴史

友人知人に必ず何人かはいる「佐藤」「鈴木」「高橋」などの名字。なぜ、それほど多いかを考えたことがあるだろうか? 日本人に多い名字ベスト10をあげ、その謎に迫ってみよう。まず前編として1〜3位をみていきたい。

日本人に多い名字のルーツをたどると、たった1人の先祖または氏族、地名からスタートしたケースが多い。

第1位 : 佐藤

ルーツの1つは、平安中期の実力者・藤原道長らを輩出した貴族の藤原北家(ふじわらほっけ / 最も栄えた藤原氏)の流れをくむ武将・藤原秀郷(ひでさと)とされる。

近江富士とも称される滋賀県の三上山に巣食う大きなムカデを退治し、人々を救った伝説の英雄だ。

『瀬田橋上に秀郷龍女を救ふ』安達吟光画。秀郷が琵琶湖に架かる橋を渡っていた時、大蛇が横たわっていた。平然と大蛇の背を踏んで通り過ぎた夜、美女(龍神の化身)の訪問を受けムカデ退治を頼まれる(東京都立中央図書館特別文庫室所蔵)
『瀬田橋上に秀郷龍女を救ふ』安達吟光画。秀郷が琵琶湖に架かる橋を渡っていた時、大蛇が横たわっていた。平然と大蛇の背を踏んで通り過ぎた夜、美女(龍神の化身)の訪問を受けムカデ退治を頼まれる(東京都立中央図書館特別文庫室所蔵)

秀郷の子孫に、藤原公清(きんきよ)という男が現れた。生まれは1166(仁安元)年で、1180(治承4)年に左衛門尉(さえもんのじょう / 宮中を警護する役所・左衛門府の官職の1つ)に任じられた。

そこから「左衛門の藤原」と呼ばれ、転じて「左藤」となり、やがて人偏(にんべん)が付いて「佐藤」になったという。

公清の流れを汲む者たちは、東北で多くに枝分かれしたらしい。このため、現在もとりわけ秋田・山形に多い。他にも藤原氏の末裔が公清にならって佐藤を名乗った例は多く、例えば下野国佐野(栃木県佐野市)に土着した藤原氏は「佐野の藤原」から佐藤に、佐渡(新潟県佐渡市)を治めた者が「佐渡の藤原」から佐藤になった。

こうして全国に散らばった佐藤の名字は、現在約200万人にのぼる。

第2位 : 鈴木

2位の鈴木は約175万人。ルーツは紀伊国、現在の和歌山県である。

そもそもは「穂積」が本姓だったことが、寛政期(1789〜1801年)に江戸幕府が編さんした大名・旗本の家譜『寛政重脩諸家譜』(かんせいちょうしゅうしょかふ)から分かっている。

左 : 『寛政重脩諸家譜』には、鈴木の本姓がそもそも「穂積」であったことが記されている(国立国会図書館所蔵)、右 : 和歌山県海南市の藤白神社は「鈴木姓のふるさと」(PIXTA)
左 : 『寛政重脩諸家譜』には、鈴木の本姓がそもそも「穂積」であったことが記されている(国立国会図書館所蔵)、右 : 和歌山県海南市の藤白神社は「鈴木姓のふるさと」(PIXTA)

穂積は大和国穂積郡(奈良県天理市)を支配していた豪族で、その宗家が紀伊国の熊野に移り、藤白鈴木(ふじしろすずき)を名乗った。熊野では稲穂を「ススキ」と呼び、神が宿ると神聖視していたことから、ススキ転じて鈴木を名字としたという説が有力だ。

この一族が鈴木の祖先の1つである。

鈴木たちは熊野信仰を普及させようと、全国に散っていった。その中から三河国(愛知県東部)に土着した者が三河鈴木氏となり、徳川家康の家臣となる。そして家康の躍進と天下統一に乗って、さらに全国に広まった。代表的な人物に、1618(元和4)年に水戸藩の家老となった鈴木重好がいる。

現在も愛知・静岡、また茨城・栃木・埼玉・神奈川などで、最も多い名字である。東海と関東―いずれも徳川の影響が強い地で発展したといえる。

第3位: 高橋

3位高橋の最も古い記録は『日本書紀』にまでさかのぼる。

8代・孝元天皇の子孫に、天皇の料理番を務める磐鹿六鴈命(いわかむつかりのみこと)がいた。現在も「日本料理の神」として、各地の神社に祀られている。御膳を担うことから膳氏(かしわでうじ)の名を賜っていた。

その末裔が、7世紀末に高橋に改名したという。

磐鹿六雁命。文献に最初に登場する高橋は、この人物の子孫。『磐鹿六雁命御事績 料理界之祖神高家神社奉祀』(国立国会図書館所蔵)
磐鹿六雁命。文献に最初に登場する高橋は、この人物の子孫。『磐鹿六雁命御事績 料理界之祖神高家神社奉祀』(国立国会図書館所蔵)

実際、奈良市には、磐鹿六鴈命を御祭神とした高橋神社という名の社(やしろ)があり、膳氏から高橋への改名は、神社の立つ地が高橋邑(たかはしむら)と呼ばれていたことに由来するといわれている。

一方では、単純に「高い場所に架かった橋」を源流とする、地名由来の名字ともいう。山岳列島の日本はあらゆる場所に渓谷があり、そこに架橋すれば地名は高橋となり、転じて名字となったというわけだ。

高橋のルーツは諸説あって、今ひとつ判然としないが、全国で約145万人が名乗っているのは、やはり至る場所にあった「高い橋」の近隣に住む人々が名乗った―と、そう考えるのが自然ではないだろうか。

後編では、4〜10位までの名字を取り上げる。

順位 名字 総数(万人)
4 田中 135
5 渡辺(渡邊など含む) 115
6 伊藤 110
7 山本 109
8 中村 107
9 小林 104
10 加藤 87

〔参考文献〕

ベスト10のランキングと本文は『決定版 面白いほどよくわかる! 家紋と名字』(家紋監修 / 高澤等、名字監修 / 森岡浩、西東社)をもとにした。また、各名字の総数は『日本人の名字』による。

バナー写真 : PIXTA

名前 源氏 名字