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日本相撲協会が守ってきた女人禁制は伝統の継承なのか?それとも、時代遅れ?

ジェンダー・性 文化 スポーツ

「土俵は力士にとって神聖な戦いと鍛錬の場」―として日本相撲協会は大相撲の土俵に女性が上がることをかたくなに拒否してきた。初の女性首相が誕生しても、それは変わることはないのか? 「女性と土俵」をめぐる経緯を振り返る。

大相撲の優勝力士には内閣総理大臣杯が授与される。2025年1月の初場所千秋楽では石破茂前首相が豊昇龍関に総理大臣杯を手渡した。首相自身が授与するのは2019年夏場所の安倍晋三氏以来。その時は、トランプ米大統領と共に千秋楽を観戦し、トランプ氏も土俵に上がり米国大統領杯を授与した。

朝乃山関に米国大統領杯を手渡す米トランプ大統領(2019年5月、東京・両国国技館)(時事)
朝乃山関に米国大統領杯を手渡す米トランプ大統領(2019年5月、東京・両国国技館)(時事)

日本相撲協会はこれまで「土俵の女人禁制」を守ることにこだわってきた。憲政史上初の女性首相となった高市早苗氏が総理大臣杯を直接授与することを希望しても伝統は守られるのか? それとも、そもそも首相は直接授与を希望しないのか?

「女性と土俵」をめぐる主な出来事

1978年5月

わんぱく相撲予選で準優勝した少女が蔵前国技館での決勝大会への出場を拒否される。

労働省の森山真弓婦人少年局長が日本相撲協会理事を局長室に呼び「なぜ、女は土俵に上がれないのですか。不浄だからですか」と質問。これに対し、理事らは「土俵は力士にとって神聖な戦いと鍛錬の場。大相撲の伝統を守りたい」と応じ、少女の出場拒否は覆らなかった。

1989年12月

女性初の官房長官となった森山真弓氏が、「女性が大相撲の土俵に上がれないのはおかしい」と発言、内閣総理大臣杯を手渡したいと日本相撲協会に申し入れるが断られる。

2000年2月8日

全国初の女性知事となった太田房江大阪府知事が就任会見で、「大阪場所の優勝者に授与する府知事賞を自らの手で渡したい」と発言。時津風理事長が「相撲の伝統文化を守る上からも、ご遠慮いただきたい」と断る。

2000年9月12日

日本相撲協会が脚本家の内館牧子氏に横綱審議委員を委嘱。協会50年の歴史で初の女性委員(2010年まで)。

2010年10月2日

元大関・千代大海の断髪式で、途中でいったん土俵を降りて、母親に鋏(はさみ)を入れてもらった。

2018年4月4日

京都府舞鶴市の舞鶴文化公園体育館で開催された大相撲・春巡業で、多々見良三市長があいさつ中に土俵上で倒れる。とっさに土俵に上がり心臓マッサージなど救命措置をした看護師の女性に対して、場内アナウンスは「女性は土俵から降りて下さい」と繰り返す。

同日夜、八角理事長が「人命にかかわる状況には不適切な対応だった」とコメント。

2018年4月6日

兵庫県宝塚市で開催された大相撲・春巡業で、中川智子市長が土俵上であいさつをすることを要望したが認められず、土俵下の台の上であいさつ。

2018年4月28日

日本相撲協会が臨時理事会を開催し、舞鶴巡業での対応などについて協議。八角理事長が「女性を土俵に上げないことを伝統としてきましたが、緊急時、非常時は例外です。人の命にかかわる状況は例外中の例外です」との談話を発表。「例外」を示すことで、女性は土俵に上がれない「原則」を強調。

2022年3月31日

日本相撲協会が華道家の池坊保子氏と俳優の紺野美沙子氏に横綱審議委員を委嘱。

2025年11月11日

木原稔官房長官が、大相撲千秋楽での優勝力士への内閣総理大臣杯を授与に関連して、「日本の相撲文化に対し、(高市早苗)首相は伝統・文化を大切にしたいとの意向を持っている」と述べた。

【資料】

  • 日本相撲協会 「理事長談話
  • WIN WIN代表 赤松良子 「時代を視る
  • 吉崎祥司・稲野一彦  「相撲における『女人禁制の伝統』について」(2008)
  • 鈴木正崇 「相撲の女人禁制と伝統の再構築」(2021)

バナー写真:大相撲の初日を翌日に控え、土俵祭りに臨む日本相撲協会の幹部ら(2018年9月、東京・両国国技館)(時事)

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