満開の桜と名画の競演:美術館の春まつり
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春の花を描いた大作を一挙に公開
東京国立近代美術館は、所蔵する1万3000点からえりすぐった200点を『MOMATコレクション』で公開している。今度の会期は2月11日から6月14日まで。その前半4月12日までは、花を描いた日本画の名作8点を1部屋に集めて展示する、年に1度のぜいたくな空間を演出する予定だ。
とくに3月17日から4月5日までの『美術館の春まつり』期間中は、前庭で花見弁当やスパークリングワインを販売、緋(ひ)毛せんを敷いた台に腰かけ、皇居や北の丸公園に咲き誇る実際の桜を楽しめるイベントを企画した。本物の桜、それと名画の桜を同じ日に鑑賞できるわけだ。
同館の主任研究員・鶴見香織さんは「日本画は脆弱な画材で描かれているため、それぞれ年に1度の期間限定公開となります。過去4回の『美術館の春まつり』では、川合玉堂『行く春』、菊池芳文『小雨ふる吉野』、船田玉樹『花の夕』が人気トップ3でした。3点が2年ぶりに揃う今回、ぜひ足を運んでください」という。
日本画を鑑賞する秘訣
それでは、トップ3の作品を鑑賞するポイントを紹介しよう。まずは日本画鑑賞の基本から。
鶴見さんはギャラリートークで、「この屏風は右から見るのが正解だと思いますか?それとも左からだと思いますか?」と観客に尋ねることがある。正解はないが、伝統的には右から左へ視線を移していく、が日本画鑑賞の基本だ。
国の重要文化財に指定されている川合玉堂の『行く春』で例えると、1番右の1扇では桜の花びらがまばらだが、左に進むに従って枚数が増え、左隻の最後に満開の桜が現れる。「こうしてみると絵の中に時間を感じることができます」(鶴見さん)。まるで桜の下をくぐり抜けていくような感覚だ。
菊池芳文の『小雨ふる吉野』も、右から観賞すると、かすみがかる吉野山を登りながら桜散策をしている気分になる。この絵は、「とくに雨の表現に注目してもらいたい」(鶴見さん)。芳文が、屏風を立てたまま桜の花びらを描いたため、重力によって絵具が垂れたまま乾き、まるで花弁の1枚1枚にしずくが乗っているように見える。実物を間近で鑑賞した人だけが味わえるだいご味だ。
この記事のバナー写真は、船田玉樹の『花の夕』と題する横350センチ超の大作。鮮明なピンク色はドイツから取り寄せた染料で描いたと言われている。よく見ると、鮮やかな花の陰に銀色の大きな月が隠れている。写真では分かりづらいので、ぜひ実物で確かめてほしい。
40種類以上の桜が登場する跡見玉枝の『桜花図巻』、安田靫彦(ゆきひこ)の桜の女神『木花之佐久夜毘売(このはなさくやひめ)』なども展示される。畳の休憩スペースもあり、花見気分で堪能できる。
セザンヌ、現代美術など貴重なコレクションも展示
『MOMATコレクション』全体では、館内2階から4階にかけて、厳選した所蔵品を約200点展示する。桜を描いた作品に加え、2011年に購入したポール・セザンヌの話題作『大きな花束』(縦81センチ、横100センチ)や花木を描いた現代美術家の作品などが点在し、「ここにも春があった」と探しながら楽しめる構成になっている。
美術館の名作と周辺で見頃を迎える桜が競演し、国内外の観客をもてなす。花見ついでに立ち寄り、かつての絵師が見たであろう桜に思いをはせながら春を楽しむのも一興だ。
東京国立近代美術館『美術館の春まつり』
- 開催期間:3月17日~4月5日 ※春の花の名画展示期間は2月11日~4月12日
※新型コロナウイルス感染症予防対策のため、2月29日~3月15日は臨時休館となった。その後の予定については、下記の公式ホームページで要確認 - 住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
- アクセス:東京メトロ・東西線「竹橋」駅から徒歩3分
- 休館日:月曜日 ※3月30日は開館
- 開館時間:午前10時~午後5時 ※金・土曜日は午後8時まで(いずれも入館は閉館30分前まで)
- 公式ホームページ: https://www.momat.go.jp/am/
バナー写真:船田玉樹『花の夕』
写真提供=東京国立近代美術館
取材・文=ニッポンドットコム編集部