夏の囲炉裏(いろり)と冬の団扇(うちわ)。無用なものの例えだが、その時には必要のないものでも必ず役に立つときがくる。人間も同じで、辛抱して活躍できるタイミングを待つことが大切だ。自分は役立たずだと腐ったりせず、出番のない時も与えられた仕事をきちんとやっていけば、必要とされる機会が訪れる。
学級委員「文化祭のクラス演劇オーディション、マッチ売りの少女役ですが……」
学級委員「投票の結果、主役は石田さんに決まりました」
典子「悔しーい!」
学級委員「典子もうまかったけど、ちょーっと元気良すぎたかな」
クラスメート「気合が入ったマッチ売りの少女だったもんね……」
学級委員「それに比べて、石田さんはかれんで、はかなげで……」
クラスメート「ねー! 私、もらい泣きしちゃった」
典子「薄情者……」
文化祭の日。
「パチパチパチパチ」
典子「大役、お疲れさま」
石田「ありがと! 典子も頑張ってね。きっとまたチャンスがあるよ」
典子「そうかな?」
石田「そうよ!」
典子「ふう…。諦めないで、家で発声練習でもやるか…」
翌月……
おばさん「何回言わせるつもりですか?」
おばさん「お宅がうるさ過ぎますよ。近所迷惑です!」
典子の父「申し訳ございません。娘に言い聞かせますので…」
典子の父「典子、いいところに帰ってきたな。店の呼び込み、頼む。バイトの子が風邪でね」
典子「げっ! 私ひとりで⁉」
典子「やったことないってば」
典子の父「毎日見てるだろ? じゃ、7時まで任せたよ」
「え、えっと……」
「おいしいパンは……い、いかがですか……」
典子「ヤバイ! 全然売れない」
典子「おいしいパンは! いかがですかー!」
OL「安い! 1個下さい」
典子「え?」
典子「あ、ありがとうございます……」
典子「お、おいしいパンはいかがですかー! お安くなってまーす!」
おじいさん「おいしそうだね、これにしようか」
典子「ありがとうございます!」
典子「今日もやりますパン屋のセール。安くておいしい、フワッフワ〜!」
大学生「これ、下さい」
主婦「私も一つ」
典子の父「すごいな」
典子の父「売り切れじゃないか。明日も頼むよ」
典子「おう、まかしときー!」
典子「やっぱ私のキャラじゃなかったのよ、マッチ売りの少女なんて!」
典子の父「…………?」
翌週……
花屋「あの女の子、いいねえ!」
八百屋「商店街のキャンペーンガールをお願いしよう!」