古典俳諧への招待 : 今週の一句

金屏(きんびょう)の松の古さよ冬籠(ふゆごもり) ― 芭蕉

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俳句は、複数の作者が集まって作る連歌・俳諧から派生したものだ。参加者へのあいさつの気持ちを込めて、季節の話題を詠み込んだ「発句」が独立して、17文字の定型詩となった。世界一短い詩・俳句の魅力に迫るべく、1年間にわたってそのオリジンである古典俳諧から、日本の季節感、日本人の原風景を読み解いていく第3回の季題は「冬籠」。

金屏の松の古さよ冬籠 芭蕉
(1693年作、『炭俵』所収)

「冬籠」とは、冬の寒い期間、家の中に籠(こ)もることを言います。俳諧選集『炭俵』の序文によれば、1693年のある冬の夜、3人の門人が芭蕉庵を訪ね、火桶(ひおけ)に火をおこしました。芭蕉はその炭を箸で縦に横にと置き直してもてあそびながら、この発句(ほっく)をつぶやいたといいます。

「金屏」は金箔(きんぱく)の貼られた屏風(びょうぶ)。「松の古さよ」とは「屏風に描かれた松は古く太い木だ」ということ。屏風は風を防ぎますので、冬籠にとっては好ましい調度です。

でも芭蕉庵にそんな屏風があったわけはなく、「あったらいいな」と想像しているのです。暖かな金箔の輝きと古く頼もしい松の絵に守られて冬籠できたらうれしい、と。

その時よりずっと前に、芭蕉の友人の素堂が「乾坤(けんこん)の外(ほか)家もがな冬ごもり」と詠んでいました。「この世界と別の場所に家が欲しいなあ、そうしたらそこで冬籠をするのになあ」という句意です。仙人・壺公(ここう)の持つ壺の中に仙境が開けていたと伝えられる中国の伝説に取材した元稹(げんしん=中唐の詩人・政治家)の漢詩句「壺中の天地は乾坤の外(壺の中の天地はこの世界のほかにある)」を踏まえた発句でした。

芭蕉は、素堂の発句を意識して「私だったら松の描かれた金屏風に囲まれて冬籠したい」と言ったのではないでしょうか。

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俳句 松尾芭蕉