古典俳諧への招待 : 今週の一句

雪月花(せつげつか)一度にみする卯木(うつぎ)哉(かな) ― 貞徳

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俳句は、複数の作者が集まって作る連歌・俳諧から派生したものだ。参加者へのあいさつの気持ちを込めて、季節の話題を詠み込んだ「発句(ほっく)」が独立して、17文字の定型詩となった。世界一短い詩・俳句の魅力に迫るべく、1年間にわたってそのオリジンである古典俳諧から、日本の季節感、日本人の原風景を読み解いていく。第25回の季題は「卯の花」。

雪月花(せつげつか)一度にみする卯木(うつぎ)哉(かな) 貞徳(ていとく)
(1651年刊『崑山集(こんざんしゅう)』所収)

貞徳は1653年に83歳で没した和歌・連歌・俳諧の作者です。古典文学の注釈書を数多く著し、俳諧の分野では京都を中心とする「貞門(ていもん)」グループの指導者として活躍しました。和歌の伝統的表現を踏まえながら気のきいたことを述べる、みやびで穏やかな作風が貞門俳諧の特徴です。この「雪月花」の句にもそれがよく表れています。

「卯木(うつぎ)」はよく垣根に植えられる高さ1~2メートルの木で、初夏に咲く花は「卯の花(うのはな)」と呼ばれ古くから和歌に詠まれてきました。枝の先に真っ白い細かな花がびっしりと咲くさまがとても印象的です。そこから、卯の花を何か一面に白いものに喩(たと)える発想が生まれました。中でも、「雪が降り積もったようだ」とか、夜見ると「明るい月の光で地上が白く光っているようだ」というような、雪や月光に見立てた歌がたくさん残されています。

「雪」は冬の、「月」は秋の、そして卯の「花」は夏の季題です。貞徳は、「3つの季節を『一度にみする』(一度に見せてくれる)よなあ卯木は」と、しゃれたのです。日本のおとぎ話にはよく、四季の美景をいっぺんに鑑賞できるファンタジックな空間に主人公が招待される話形が見られますが、「3つの季節をカバーする卯木はまさにおとぎ話の世界のような植物だ」と、卯木を褒めているのです。

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