東大寺 誕生釈迦仏立像 :六田知弘の古仏巡礼
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なんとも愛くるしい、東大寺の誕生釈迦仏立像だ。
4月8日は、仏教を開いた釈迦の生誕日。全国各地の寺院では「花まつり(灌仏会、かんぶつえ)」と称して華やかな法要が営まれる。この時の主役が、誕生釈迦仏。母・マーヤ夫人の右脇から生まれ、7歩歩いて右手で天、左手で地を指さし、「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」と唱えたと伝えられる。灌仏会は飛鳥時代から行われてきたが、江戸時代には誕生を祝って甘茶をかける風習が広まったとされ、現在も続いている。
東大寺ではこの法要を「仏生会(ぶっしょうえ)」と呼び、大仏殿の前に色鮮やかなツバキやアセビで飾った御堂を設えて誕生仏を安置する。もっとも、国宝に甘茶を注ぐわけにはいかないので、花まつりにお出ましになるのはレプリカ。実物は甘茶を受ける金銅の灌仏盤と共に、東大寺ミュージアムに安置されている。

目を細めてほほ笑んだような表情やぷっくりとした頬や腕は、誕生間もない幼児の様子を巧みに表現している。一方で頭部は悟った者に現れるとされる螺髪(らほつ=巻き貝状の縮れた毛)で、悠然とした風情を漂わせている。
天平美術を代表する逸品とされるが、文献に記録があるわけでなく、制作者は分かっていない。盧舎那(るしゃな)大仏に献灯するため752(天平勝宝4)年の開眼供養にあわせて建立されたとみられる八角燈籠の音声菩薩(おんじょうぼさつ)と表情や柔らかな肉体表現に共通するものがあり、誕生仏も同時期の制作とする説が主流である。

東大寺大仏殿の正面にある八角燈籠(とうろう)。高さ約4.6メートルで日本最大、最古の金銅製燈籠で国宝に指定されている

八角燈籠の4面には横笛や縦笛など、それぞれ異なる楽器を奏でる音声菩薩の浮き彫りがある
しかしこの誕生仏を眺めていると、誰が作ったのか、いつの時代のものなのかなどさまつなことに思えてくる。穏やかなまなざしが時代を超えて、今を生きる私たちに「仏とは何か」を静かに問いかけてくるように感じられ、深く心を打たれるのである。
一般的に誕生仏は小ぶりのものが多く、現存する日本最古とされる正眼寺(しょうげんじ)の誕生仏(飛鳥時代)も10センチに満たない金銅仏だ。本像は47.5センチで、古代に制作された誕生仏では日本最大として知られる。「幼さやかわいらしさが前面に出た他の誕生仏とは受ける印象がまるで異なる」と写真家の六田知弘は語る。「その姿は、世界を救うために自分は生まれたという自信にあふれているように思える」

誕生釈迦仏立像
- 読み:たんじょうしゃかぶつりゅうぞう
- 像高:47.5センチ
- 時代:奈良時代
- 所蔵:東大寺
- 指定:国宝(指定名:銅造誕生釈迦仏立像)
バナー写真:誕生釈迦仏立像 東大寺蔵 撮影:六田 知弘