和牛ならではの味わいを楽しむ : 脂肪がコク、甘味、余韻を生む

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値段が張る和牛は「ごちそう」だけにおいしく食べたい。石川県白山市で100年以上の歴史を誇る国産牛卸の五十嵐商会社長の五十嵐直樹さんに、和牛をおいしく食べるためのコツを語ってもらった。五十嵐さんは10年間で5万頭の牛をさばき、牛肉を知り尽くす「牛肉博士」として知られる。 

肉の見極め方

和牛をおいしく食べるには、まずは、肉の品質を見極めることです。和牛の特徴である「脂肪交雑=霜降りの度合い」「脂肪の色および質」「肉の色沢」「肉のきめ、締まり」で判断します。

加熱して脂肪がとけると、甘味や余韻を生む(PIXTA)
加熱して脂肪が溶けると、甘味や余韻を生む(PIXTA)

レストランやデパ地下の食品売り場で「最上級のA5ランク」などの表示を目にしたことがあるでしょう。A1~A5までの5段階表示で数字が大きいほど脂肪が多いことを示しています。

良い脂肪は白色または乳白色で、加熱して溶けることで香り、コク、甘み、口どけ、余韻を生み出し、かんだ時に赤身部分の筋繊維の硬さを感じにくくしてくれます。

「脂肪交雑」は見た目の評価なので、必ずしも脂肪が多ければおいしいというわけではありません。「5」では脂が強すぎると感じる人は、「3」くらいがいいのではないかと思います。

くすみのない鮮やかな色が良い肉を見極めるポイント(フォトAC)
くすみのない鮮やかな色が良い肉を見極めるポイント(フォトAC)

肉の色は鮮紅色が標準で、良いものは艶(つや)のある鮮紅色になります。「きめ」は筋肉の細やかさで、きめが細かいほど肉は柔らかい。水分が少ないと「締まり」は良いです。

肉の見た目だけでなく、肉が入ったトレーを傾けてドリップが出ていないか、表面が乾いていないかを見たり、店の人に怒られない程度に指でちょっと押して硬さをみたりするといいでしょう。

「薄切り」は日本人が生み出した工夫

日本の牛肉の食べ方の特徴は「薄切り」です。日本で牛肉を本格的に食べるようになったのは明治時代以降です。農耕や荷役のために飼っていた牛は肉質が硬かったでしょう。また、肉食文化の歴史が長い外国の人と比べて日本人の顎が強くないことも背景にあると考えます。その意味で、「すき焼き」は、牛肉をおいしく食べるための日本人の知恵だと思います。

外来種を導入して品種改良を進めた結果、サシが特徴の柔らかい和牛が全盛ですが、すき焼きやしゃぶしゃぶは、サーロインやヒレほど柔らかい部位でなくても十分です。リーズナブルな肩ロースや肩、モモなどがおすすめです。

すき焼きは「モモ」「カタ」など、ステーキほど高級な部位でなくてもOK (フォトAC)
すき焼きは「モモ」「カタ」など、ステーキほど高級な部位でなくてもOK (フォトAC)

きっちりラップして酸化防止を

和牛をおいしく食べるためには、調理をする前の下準備も重要です。

和牛の脂肪は融点が低く酸化しやすいので温度管理と酸素対策が特に重要です。スーパーや肉屋さんで和牛を買ってきたら、トレーや包みのままで冷蔵庫に入れない。家庭用の真空パック器があれば、真空包装が理想です。それがなくても、きっちりラップして冷蔵庫で保存することで、酸化を防ぎ、細菌の増殖を抑え、品質を保つことができます。管理が悪いと脂肪が酸化して、嫌なにおいになることがあります。

調理する前には、冷蔵庫から肉を出して常温に戻してください。冷蔵庫に肉を入れると、外側から中心部に向かって冷えます。加熱する時は、外側から先に温まるので、冷たい肉をいきなり焼くと、脂だけが溶け出して肉全体に熱がきれいに入りません。

ステーキは「蒸す」

ステーキの焼き方の基本は、和牛でも赤身肉でも同じです。ただし、サシの多い和牛は脂の口どけや香りが食味に大きく関係するため、赤身肉とは少し火入れの考え方が違います。赤身肉は、焼きすぎると水分が抜けて筋繊維が締まり、硬くなりやすい。

一方、和牛は、加熱によって脂がほどよく溶けることで、口どけやジューシーさ、香りが出ます。赤身肉は「水分を逃がさない焼き方」、和牛は「脂を活かし、溶かしすぎない焼き方」がポイントです。和牛の場合は強火で長く焼きすぎず、表面に香ばしさをつけながら、中の脂をほどよく溶かすことをイメージして下さい。

和牛は肉自体に脂が多いので、フライパンに油を多くひく必要はありません。まず片面を高温で焦げ目がつくくらいに焼く。そして、裏返したら中温もしくは低温で蒸すように焼く。片面をきっちりと焼くことで肉の繊維をキュッと閉め、肉汁や香りを閉じ込めます。

最初から低温で焼くと旨味が逃げます。裏返して「蒸す」というのは蓋をすること。鉄板焼き屋で、ドーム状の金属製の蓋を肉に被せているのと同じです。肉の中までじわじわと熱を入れるのです。焼いている途中に脂が出すぎる場合は、軽く拭き取りながら焼くと、脂のしつこさを抑えられます。

和牛は脂を溶かしすぎないように焼くのがコツ(PIXTA)
和牛は脂を溶かしすぎないように焼くのがコツ(PIXTA)

「塩、こしょう」は焼く直前にしてください。私は、塩だけです。塩は、肉の味そのものを引き出すのに非常に使い勝手いい。スイカに塩を振ると甘味が際立つのと同じです。赤身の肉の場合は、塩を擦りこまなければなりませんが、和牛は、脂肪の融点が低く塩が入り込みやすいのでその必要はありません。 

和牛をコールドミートで!

従来、豚肉はコールドミートと言われ冷たい料理に向き、牛肉は冷たい料理には向いてないとされてきました。特に、脂肪が多い和牛は熱いまま食べた方がおいしいのは確かです。

しかし、近年、和牛の肉質の変化を感じています。種牛改良と飼養管理技術の向上によって、1トンを超えるような大きな牛が出てきています。1頭の牛からとれる枝肉の量の多さが売り上げに係わるので生産者にとっては大きな牛は魅力的だからです。その結果、肉の味わいが淡泊になってきているように思えます。モモやランプ・イチボなど熱いうちに食べた方がおいしいとされていた部位も、コールドミートとして味わったらいかがでしょうか。

ローストビーフにして薄切りにして、野菜サラダの具材の一つとして活用する。すごくあっさりしていて、冷たくても肉の味や脂の香りがほのかに感じられます。今の「オススメ料理」と問われたら、これです。

ローストビーフをサラダの具材に(PIXTA)
ローストビーフをサラダの具材に(PIXTA)

和牛は、日本人が品種改良で作り上げてきたものです。日本人は食に関して「美しさ」を重視します。和牛でいえば、薄いピンク色の肉と白色の脂の混じり具合の美しさ。レストランで「今日のお肉です」と披露してくれると、見ただけで「おいしい」。家庭でも見た目から“味わって”みたら、より和牛を楽しめるでしょう。

取材・構成 : 山田道子

バナー写真:PIXTA

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