【新書・選書紹介】東アジアの情勢変化を直視せよ!:手嶋龍一、佐藤優著「米中衝突~危機の日米同盟と朝鮮半島」

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外交ジャーナリスト・手嶋龍一氏と元外務省主任分析官・佐藤優氏の対談本。先の『独裁の宴~世界の歪みを読み解く』(中央公論ラクレ、2017年12月)で、「米朝はいずれ結ぶ」と朝鮮半島情勢の大転換を言い当てた2人は今回、北朝鮮の核問題が終幕に向かうとすれば「日本が米中衝突の最前線になる」と、東アジアの地政学的なリスク増大に警鐘を鳴らす。

「既存のルール」が通用しなくなる東アジア

本書が扱う最大のテーマは、北朝鮮問題が「終焉」に向かった後の朝鮮半島、東アジアの将来像だ。休戦状態にある朝鮮戦争の「終戦協定」が結ばれ、米朝平和条約が締結されれば、韓国と北朝鮮を隔てる「38度線」はその意味を変え、アジアの冷戦構造はようやく幕を閉じることになる。

南北の緊張緩和と同時に、朝鮮半島は中華経済圏に引き寄せられ、中国と米国、そしてロシアも加わった「新グレートゲーム」の主戦場になるというのが2人の見立てだ。中長期的に起きつつある米国の緩やかな衰退、そして中国の伸長により、米国の“防衛線”が38度線から対馬海峡まで後退する可能性も指摘する。そうなれば、日本は地政学的に見て、「米中衝突」の最前線に立つ国家に変貌することになる。

2人の危機意識は、この国際環境激変の可能性を直視し、日本が今後、大局観を持った外交を進める準備があるかどうかという点にある。手嶋氏は冷戦のルールが崩壊した後を見据え、「日本は(東アジアにおける)多国間の安全保障システムの構築という新しいゲームに参加し、外交力を鍛えるべきなのです。日米安保で事足れり、という時代は終わったのです」と説く。

米朝トップをつなぐ「共通点」

本書の前半では、北朝鮮の弾道ミサイル発射にともなう「危機」に対する日本の対応、米朝首脳会談が実現するまでの経緯、北朝鮮の目論見などについて、一般のメディアではお目にかかれないような情報、分析が次々と繰り出されて、一気に読ませる。

例えば、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、なぜ波長が合うように見えるのか。佐藤氏は、金日成の両親が熱心な長老派キリスト教徒だったという事実を挙げ、金日成主義にも、「選ばれた民」が「最後に勝利する」とい長老派教会の思想が反映されていると解説する。トランプ氏も長老派キリスト教徒であり、「彼らには、自分の『信念体系』が似ているのか否かが、直感的に見えるわけです」(佐藤氏)という。

金正恩氏がシンガポールでの米朝会談の前夜に、衆人環視の中で高級ホテル「マリーナベイ・サンズ」を訪れたエピソードの分析・解説も興味深い。「カジノ」ビジネスで北朝鮮が狙う外貨の行方と、その分野に連なる米国のトランプ人脈が詳細に紹介されている。(編集部)

米中衝突~危機の日米同盟と朝鮮半島

手嶋龍一、佐藤優(著)
発行:中央公論新社
新書: 221ページ
定価:本体820円
ISBN 978-4-12-150639-9
発売日: 2018年12月10日

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