【新刊紹介】『百花』『連鎖退職』

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認知症をテーマに、母と息子の切ない思いをつづった物語。もう1冊は、次々と社員らが辞めていく社会問題を分析した新書。

川村元気著:『百花』文藝春秋

最愛の息子さえ忘れていく認知症の母。仕事にかまけて忘れていた母との思い出を蘇らせていく息子。

シングルマザーだった母は1人で息子を産み、この子のため生きてきた。だが、その母子には、お互いにわだかまりを持ちながら、触れようとしなかった“過去”があった。息子はその真相を、一人暮らしだった母が施設に入った後に知ることになる。

映画プロデューサーの著者の作品らしく、場面が次々と変わり、時代は何度も前後する。だが、決して読みにくくはない。読者はいつの間にか作者の思いに共感して、読み進めているからだろう。映画製作者ならではの筆法である。 

母の認知症が進む一方で、妻が出産する。痛みに耐え、心細そうに分娩室に入っていく妻を見ながら、母はどんな思いで自分を生んだのだろうかと、息子は思う。赤ん坊を抱いた息子は、体の奥底からこみ上げてくるものを感じ、嗚咽する。生と老いの最後を、作者は巧みに交差させた。

本書の最後で、著者は祖母への感謝の意を表している。著者は認知症の祖母を見つめた体験をもとに、「認知症の方や、家族、介護関係者など100人以上と会い、2年半かけて書いた」と述べている。

難しいことを語らず、認知症と、その家族の思いを見事に紡いでいるのは、こうした体験と取材に裏打ちされているからだ。

新刊紹介 百花

発行日:2019年5月15日
四六判 299ページ
ISBN:9784163910031

山本寛著:『連鎖退職』日本経済新聞出版社

1人が退職すると、次々と退職者が続く「連鎖退職」。社員やメンバーが急減して業務が回らなくなり、最悪のケースでは倒産や組織崩壊に至ることも。「連鎖退職」が多様な組織、部署で起きている。

銀行などに勤務した大学経営学部教授が、その連鎖退職の実態や対策などをまとめたのが本書だ。この中で引用されている新入社員の意識調査によると、「今の会社に働き続けたい人」の比率は2016年が62%だったのに対し、19年は50.4%と年々低下。逆に「そのうち転職したい」と思っている新入社員がどんどん増えている。

連鎖退職には2つのパターンがあるという。中小企業などギリギリの人員で仕事を回しているような組織で起きやすい「ドミノ倒し型」。誰かが辞めた後、補充がうまくいかないと、残った社員の負担が重くなり、潜在的な不満が噴出してしまう。

もう一つは大企業など大きな組織で起こりやすい「蟻の一穴型」。不合理な職場の慣習や、理不尽な人事評価など、その職場の問題に疑問を持った社員が辞めて、上層部が何もしないと、同じ疑問や不満を持った社員らが次々辞めてしまう。

連鎖退職の対策は、経営陣が社員らに、いかに「簡単に辞めない方が得」と感じさせるか、である。著者は、連鎖退職した人の声も集めた。転職した後、前より給料が下がったり、また前の会社に戻ったりと、「勢いでの退職は良い結果につながらないようです」と警告している。

新刊紹介 連鎖退職

発行日:2019年6月10日
新書版 214ページ
ISBN:9784532264031

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