【新刊紹介】悪者にされた鬼:戸矢学著『鬼とはなにか』

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角がはえ、恐れられる鬼。しかし、鬼のような面をかぶった秋田の「なまはげ」は、ユネスコの無形文化遺産に登録され、親しまれている。鬼をまつる神社もある。なぜ鬼は全く違う二面性を持つのか、歴史作家が解き明かした。

日本に元々あった「おに」という大和言葉は、「かみ」と同類の畏敬すべき何者かを意味していた。その「おに」に「鬼」という漢字を当てはめたことで荒ぶる姿に化けた、と著者は指摘する。

鬼退治で有名な桃太郎は、古代のスメラミコト(天皇)か征夷大将軍で、鬼は抵抗する各地の豪族たち。付き従う猿、鳥、犬は天皇の臣下となり、自己保身する家来たち。つまり、ヤマト(都の政権)に従わない者は鬼とされ、征討された。やがて、ヤマトの新しい祭りに参加せず、自分たちの古き祭りを守る人たちも鬼とされた。

そして、鬼には、頭に角がはえ、虎の皮のふんどし姿のイメージが作られていく。京の都人が恐れる怨霊や鬼は、都の東北方面からやってくるとされ、「鬼門」となる。節分の豆まきでは「鬼は外」と、嫌われ者になった。

しかし、鬼が祭神、あるいは「鬼」が社名に入る神社は、全国に78社あるという。その神は、ヤマトに受け入れられなかった神であり、ヤマトの系譜とは全く別の神、あるいは人々が住みつく以前からその地にいた土俗神かもしれない。

鬼は元々、福をもたらす「かみ」だった。東北地方を始めとして全国各地に残る「鬼まつり」は、おとしめられて悪の権化とされてしまった鬼への思慕であり、日本の「おに」の復権を願う、と著者は述べている。

発行:河出書房新社
発行日:2019年5月30日
四六判185ページ
ISBN:9784309227702

(次回は9月7日掲載)

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