【新刊紹介】ネットにあふれる「偽」:高野聖玄著『フェイクウェブ』

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今や社会に欠かせなくなったインターネットだが、国家、大企業から個人まで、誰もがネットで騙されかねない脅威にさらされている。サイバーセキュリティ会社の現役トップが、ネット空間の現実や、対策を綴った。

本の冒頭に、日本航空が2017年、3億8400万円もの被害に遭った事件が紹介されている。取引先への送金の数日前に、取引会社になりすました犯人側から送金先口座の変更を伝えるメールが届く。日航の担当者はその指示に従って送金。香港の銀行口座に振り込まれた大金は闇に消えたままだ。

近年、問題になっている「フェイクニュース」。その背後にある「一番大きな存在は国家である」と著者は指摘する。サイバー攻撃などで相手国のネット上の世論を操作することが、非常に重要視されているのだ。

個人レベルでは、小遣い稼ぎにしたい心理を悪用した偽ビジネスが要注意。「アンケートに協力したらポイント進呈」といった勧誘だ。名前や住所など個人情報、資産、クレジットカード情報を入力させ、それを転売している悪質業者もいるという。

違法コピーした人気漫画を無断で公開していた海賊版サイト「漫画村」の著作権法違反事件を例に、ネット広告を出す企業にも、著者は反省を求める。広告がどこに配信されるか完全に把握できてない企業も少なくない。知らないうちに違法サイトの“共犯者”になり、企業のブランドイメージを落としている。

「インターネットは自由社会の象徴だった。だが、サイバー攻撃者や犯罪者によって汚染され、悪意ある者たちには活動しやすく、一般の人には脅威ばかりが増す、住みにくい空間になりつつある」と著者は嘆いている。

発行:文藝春秋
発行日:2019年5月20日
新書判214ページ
ISBN: 9784166612185

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