【新刊紹介】”移民開国”した日本に教訓:岡部伸著『イギリスの失敗』

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何世紀にも及ぶ常識を基礎として世界で最も安定しているとされる英国の統治スタイルが、なぜ歯車を狂わせたのか。世界の規範とされて来た議会制民主主義がなぜ機能しないのか。欧州連合(EU)からの離脱を巡り「第2次大戦以来の政治危機」にある英国に4月まで産経新聞ロンドン支局長として3年半駐在した筆者が解明を試みた現場報告である。

英国政治が変化している。比例代表制の欧州議会選挙では、英国独立党(UKIP)やブレクジット党、自由民主党など小政党が躍進して存在感を示した。保守党、労働党とも強硬離脱派、穏健離脱派、残留派が存在し、党の結束力と一体性が低下して退潮する。ブレクジットでは二大政党が民意を反映できない。政権を奪うことだけが目的の「対決型政治」を繰り返し、政党として一体化しない保守党、労働党ともに存続の危機にあり、二大政党制から多党化への流れが混迷長期化の背景にある。

EUと離脱案で合意しながら分断を収められず、退陣を余儀なくされたメイ前首相に代わって保守党員から66.4%の圧倒的支持を得て、後継首相に就任したジョンソン氏は、「合意が成立するかにかかわらず」10月31日に離脱すると強硬姿勢を取る。

その理由は、EU離脱を実現して党勢回復しなければ、労働党に政権奪取され、消滅するとの保守党の危機感の現れであり、その底流に、サッチャー元首相以来、保守党内を支配する本流の「イングランド・ナショナリズム」による欧州懐疑主義の最強硬派の存在がある。キャメロン元首相に国民投票を選択させ、メイ首相の離脱案に最後まで反対して辞任に追い込んだのも「奥の院」の彼らだった。

英国が「わがまま」「ポピュリズム(大衆迎合主義)」からEUを抜けるのではなく、混迷の背景に離脱交渉で懲罰的交渉姿勢を崩さなかったEU側の非妥協性がある。戦勝国である英国を見下したかのごとく、自分たちの理念と思想を「欧州共通ルール」として押し付け続けるブリュッセルのEU官僚たちによる中央集権・ユーロ体制に「気骨ある異端」の誇り高い英国人たちの不信、不満が頂点に達したのである。そして理想を求めて統合拡大を急ぎすぎたEUこそ機能不全に陥り、崩壊の危機にある。

EU東方拡大による移民増大に翻弄され、EU単一市場に残る経済合理性より移民規制を選択した黄昏の老大国の「失敗」は示唆に富んでいる。事実上の移民国家に舵を切った日本の将来を考える他山の石になるだろう。
(ニッポンドットコム編集部)

発行:PHP研究所
発行日:2019年9月10日
新書版224ページ
ISBN:978-4-569-84350-6

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