【新刊紹介】気になる人を追い続けた、芥川賞受賞作:今村夏子著『むらさきのスカートの女』

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「わたし」が、近所に住む「むらさきのスカートの女」を気になり、観察し続ける。ただ、それだけに徹した短い本作だが、読んだ人は不思議な読後感に包まれる。7月、芥川賞に選ばれた。

「わたし、黄色いカーディガンの女」は「むらさきのスカートの女」と友だちになりたい。だから、「わたし」はずっと彼女を見守り続ける。その描写が長い。筆者は半分まで読んで、これは「むらさきのスカートの女」に付きまとう「ストーカー女」を書いた作品かと思った。

ごく普通の市民の日常、職場などでのことが描かれ、後半の一部を除いて、大きなヤマはない。文章は短く、平易なので、どんどん読み進んでしまう。でも、いつの間にか、「わたし」が気になっていた「むらさきのスカートの女」が見えなくなる。「あれっ」と思っていると、もう終わり。

読者は変な世界に置いていかれる。その感じ方は、それぞれ読者によって違うだろう。作者は、全てを計算して創作している。芥川賞の選考委員らは、作者独特の巧みさを評価していた。

もし、この作品を読んで、よくわからなかった方がいたら、筆者からヒントを一つ。改めて表紙の絵を見ること。読む前には気にならなかったが、読後に改めてながめると、「なんだ、そういうことか」と思うかもしれない。実は筆者も、そうだった。

発行:朝日新聞出版
発行日:2019年6月30日
四六判158ページ
ISBN: 9784022516121

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