【新刊紹介】選挙を通して現代台湾を理解する:小笠原欣幸著『台湾総統選挙』

Books 国際 政治・外交

1月11月に迫った台湾の総統選挙。4年に1度、台湾2300万人が自らリーダーを選ぶもので、中国や米国も絡んで国際的にも注目される一大政治イベントだ。その選挙の生態を徹底的に掘り起こした一冊が、最適のタイミングで刊行された。

本書は1996年から2016年までの6回の総統選挙を通しで論じた初めての研究書であるが、それだけではなく、選挙を切り口にした現代台湾政治の総合的な解説書である。序章の「台湾政治概説」で、蒋介石から民主化までの台湾政治の大きな流れが把握できる。次に「選挙の争点」を扱った章があり、台湾の総統選挙が何を争っているのかがわかる。また、補論として著者が長年培ってきた台湾の地方選挙の分析手法が総統選挙に応用されていることが説明される。

各論では、6回の選挙の各陣営の選挙戦略、選挙結果が整理され、その選挙の意義が簡潔に提示されている。選挙結果の分析は非常に緻密で、県市レベルだけでなく、郷鎮レベルの動向、そして台湾の全投票所を対象とする投票傾向にまで及んでいる。終章では総統選挙がもたらした変化が分析されており、総統選挙が台湾アイデンティティを興隆させたという結論が示される。

本書の筆者である小笠原欣幸氏は、地方の現場への徹底したこだわりがあり、台湾の有権者のアイデンティティ意識、政治への期待や迷いにまで切り込む。これは、総統選挙を動かす票は台北の選対本部や大手メディア本社ではなく、地方にあるという筆者の観察姿勢からきている。台湾総統選挙が米中の力関係で決まるかのように言われることもあるが、そんな単純な話ではないことも本書は描き出している。

台湾の有権者の投票行動を分析する方法論として、標準偏差やヒストグラムなどの統計ツールと、現場での聞き取りとを組み合わせているのが筆者のオリジナルであろう。筆者はこの四半世紀の台湾の民主主義を評価する立場だが、同時に、台湾政治の問題の深さや難しさも明らかにしている。

香港と台湾はよく並べて論じられるし、香港情勢は今回の台湾総統選挙にも影響を与えている。だが、両者の最大の違いは、台湾には国家機構があり国のトップを1人1票の普通選挙で選んでいる点にある。日本の政治ベクトルでは、保守/右派の方が台湾に関心のある人が多いが、リベラル/左派の人にこそ台湾の民主主義の歩みと民主主義を守る苦悩について本書を通して知ってほしい。(ニッポンドットコム編集部)

発行:晃洋書房
発行日:2019年11月10日
A5判358ページ
価格:2800円(税別)
ISBN:9784771032712

書評 本・書籍 台湾 新刊紹介