【新刊紹介】未来に備える「当用歴史書」のすゝめ:谷口智彦著『日本人のための現代史講義』

Books 政治・外交 社会 経済・ビジネス 文化

米中が対立を深める不穏な国際情勢のなか、われわれは未来にどう備えるべきか。その重大なヒントを近過去の歴史から学んでいく。

著者によれば、本書は「当用歴史書」であるという。未来を切り拓いていくうえで参考にすべき、当座の用に役立つ歴史という意味だ。

そこで著者は、戦後史のなかから知っておくべき出来事を選りすぐり、読者にわかりやすくその意味を説いていく。いくつか紹介すれば――。

日本は、終戦後、米国から受けた恩恵を忘れている。朝鮮戦争を契機として、近過去に刻まれた対日支援の数々。そこから未来の日米同盟を見据えていく。

これからも、われわれが国際社会を生き延びていくためには日米同盟が基軸であるというのが著者の考えだ。

1950年代末、中国共産党は、毛沢東がすすめた「大躍進」政策で、「4000万人」の餓死者を出している。封印された歴史から、将来の中国の混乱を予想する。

このような隣国と対峙していくには、日本はインドとの友好を深めるべき。そのためには、1962年の中印国境紛争の歴史を知らなければならない。

「どうやれば国益が守れるか。英国が示したリアリズム、プラグマティズムに、日本はまだ多くを学ぶべき」と著者は説く。ヒントになるのは1956年のスエズ危機を契機とした英国の対米姿勢だ。

著者は、戦後史の分岐点は、「ベルリンの壁」の崩壊ではなく、1971年8月15日、電撃的にドルと金との兌換停止を発表した「ニクソン・ショック」であるという。それで世界はどう変わっていったのか。

著者の谷口氏は、『日経ビジネス』の記者、ロンドン特派員を経て、外務省副報道官、2014年からは内閣官房参与として安部総理の外交政策演説を担当している。

とかく学者の記す歴史書は、あたかも客観性を装い、反論を恐れ、逃げを打つ。ところが本書の著者は、歯に衣着せず、ときに断定的に評価を下す。その語り口には相当の熱量がある。それがむしろ潔く、説得力がある。

知らなかったこと、あらためて再確認したこと、興味は尽きない。

草思社文庫
発行日:2019年10月8日
文庫版356ページ
価格:900円(税抜き)
ISBN:978-4-7942-2416-3

中国 歴史 インド 書籍 新刊紹介