【新刊紹介】世界秩序の地殻変動を知る:ケント・E・カルダー著『スーパー大陸~ユーラシア統合の地政学』

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西欧と米国が世界を主導した「大西洋の時代」は衰退期に入り、ユーラシアが次の”スーパー大陸”として世界をけん引していくだろう――。世界の地殻変動を詳細、かつ具体的に分析した好書が和訳された。原書は英フィナンシャルタイムズの「2019年ベスト書籍(政治部門)」の一冊に選ばれている。

知日派の政治学者として知られる著者(ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題大学院副学長)は、日本政治、東アジアの国際関係が主たる研究分野だが、本書では、ここ数年で顕著となってきた世界秩序の静かな変動を詳述・解説する。

なぜユーラシアが、今後「スーパー大陸」になると予測するのか。著者は「連結」「統合」というキーワードを挙げる。これまでバラバラだった大陸の各地が経済的に結びつき、共通の利益を得るための政治的意思を持てば、それが相乗効果を生んで大きなパワーを生み出すことになる。北米が現在の「スーパー大陸」になったのも、同じ連結・統合、すなわち大陸横断鉄道の開通(1869年)とパナマ運河の完成(1914年)により、米国の東海岸と西海岸が結ばれて発展に拍車がかかったことが大きな要因となった。

そして、ユーラシアでは今まさに、「連結」「統合」の動きが加速していると著者は指摘する。急成長している「南南貿易」(南の途上国間での貿易)、中国の「一帯一路構想」による経済的な結びつきの強化、欧州と中央アジア、中国をつなぐ陸上輸送路の発展、エネルギー貿易を通じた中国・ロシアの蜜月関係形成――など、ダイナミックなうねりが生まれている。

一方で、米トランプ政権の「内向き姿勢」も、ユーラシア諸国の関係深化を助長している。トランプ大統領が旗を振る“米中貿易戦争”は、世界的な景気減速懸念を加速するだけでなく、中国の目をより西に、つまり中央・西アジア、ロシア、東欧などに向かわせる。

現在の「ユーラシアの台頭」をもたらす大きな要因となった近年の出来事として、著者は「中国の4つの近代化」に加え、①1991年末のソ連崩壊、②リーマン・ブラザーズの破たんに端を発した2008年の金融危機、③2014年のウクライナ危機――を「3つの重大局面」として挙げている。②、③が何をもたらしたかの説明は特に新鮮に感じた。

日本に住み、主に日本のメディア報道を読み聞きして生活していると、国際政治を見る目はどうしても東アジア中心になり、米中2つの大国の均衡・対立という図式のみだけで物事を考えがちだ。本書は世界を俯瞰(ふかん)して、より大きなスケールでの因果関係を探っていく。また100年前、1000年前といった歴史的な視点から世界をとらえ直していく部分もあり、純粋な読書の楽しみも味わえる奥深い一冊だ。

潮出版社
発行日:2019年11月5日
408ページ
価格:3500円(税抜き)
ISBN 978-4-267-02219-7

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