【新刊紹介】世界を楽しめるフォトエッセイ:椎名誠著『毎朝ちがう風景があった』

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世界の人々の暮らしや風景を、短くて楽しい文章で読んでいくフォトエッセイ。作家、椎名誠のデビュー40周年を記念して、本書は出版された。これ1冊で世界旅行した気分になれる。

高度4000メートルの山岳地帯が続くチベットで、“人間しゃくとり虫”のような五体投地拝礼で進む巡礼者たち。苦しそうな表情の写真はよく見るが、著者が撮ったのは、若い夫婦が昼食をとっているところだ。二人が仲良く大地に腰を下ろし、笑顔を向けている。

写真説明がしゃれている。「長くきびしい巡礼の旅を続けている。喜びは夫婦でいつもいられること。こうして苦楽を共にできることだ。」

ラオスの小物類を売っている店の前で。ポシェットのデザインはぐるぐる巻きの蚊取り線香。実はこれがラオスの数字の「1」だ。値段は日本円で10円にも満たない。旅の土産には好都合だ。ちなみに、「2から9までこういうグルグル文字なので、なかなか覚えられない」。

世界幸福度ランキングで上位の常連であるアイスランドの記述も興味深い。大西洋の孤島で、税金も高く消費税は25.5%。活火山があるので常にどこかが噴火し、農作物はわずかにジャガイモがとれるだけ。

では、どうして国民は幸福なのか。原発はなく、発電はたくさんある水源を利用した水力発電と、広範囲に存在する地熱を利用した地熱発電。学校、病院の費用は国家負担だ。軍隊はなく、警察官も凶悪犯罪がないので拳銃を携帯していないという。行政の建物の庭は子供たちの遊び場だ。

写真は太めの父さんとそのファミリー。「パンは地面の中に生地を入れておくと、地中から噴き出る蒸気によって、1時間足らずでふっくらしたおいしそうなパンに焼きあがる」。地熱で沸かしたお湯を風呂などに使っており、燃料費はほぼただ、なのだ。

本書には、世界のなかなか行けない50か所が紹介されており、旅を愛した著者の作家人生40年が詰まっている。

発行:新日本出版社
発行日:2019年12月10日
四六判 219ページ
価格:1800円(税抜き)
ISBN: 978-4-406-06433-0

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