【新刊紹介】リベラルアーツの学びをネット空間から御裾分け:テンミニッツTV編『現代のリベラルアーツとは何か:よりよく生きるための「知の力」』

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グローバル化が進み、激動が続く社会で、刻々変化する諸環境と現代人は向かい合うことを求められている。「知識の爆発」時代にあって、「知の構造化」を目指してネット空間に登場した10分動画「テンミニッツTV」からの入門編講義を収録した本書は、読者がさまざまな形でリベラルアーツの学びを日常に取り込む面白さ、大切さを教えてくれる。

リベラルアーツといって思い浮かぶのは、古代ギリシャ・ローマ、啓蒙期の英仏独、または近年の米国におけるエリート育成のリベラルアーツ・カレッジの教育だろう。本書でのリベラルアーツとは、現代に生きる私たちが、社会的な課題を的確に理解し、実践対応することで現代社会を生き抜く力で、それは「知の全体像」を掴むことだとする。これを実現したのが2014年2月に始まった「最高水準の『教養』を、10分の動画で学ぶ」ネット上の会員制コンテンツサイトの「テンミニッツTV」で、この「大人の教養講座」は3000を超える。

本書は、テンミニッツTVにアップされている対話形式講義からマスト・ウォッチ(must watch)として選ばれた6講義を、現代のリベラルアーツ入門編としてテキスト化したものである。章の構成は、①「知の構造化(小宮山宏・元東京大学総長)」、②「教養・経済学的発想(柳川範之・東京大学教授)」、③「科学的思考(岡部徹・東京大学教授)」、④「東洋思想(田口佳史・イメージプラン社長)」、⑤「政治制度・政治情勢(曽根泰教・慶應義塾大学名誉教授)」、⑥「国際地域研究(島田晴雄・首都大学東京理事長)」の順で人文科学、社会科学、自然科学を分野横断的に編んでいる。

冒頭、「知の構造化」を担当した、テンミニッツTV座長でもある小宮山氏は、知の全体像を一人ひとりが持つことが「現代のリベラルアーツ」だとする。構造化された知を社会全体に開くものとするため、10分コンパクト動画としてネット空間に提供された中からの選りすぐり編は、多忙な現代ビジネスマンでも手軽に読める。

この内、岡部教授の「科学的思考」章では、「不純物が少ない透明な氷を作る」という身近な日常事を考える中から、読者を知らずの内に熱力学の世界にいざない、自然科学的な見方により固定された日常の出来事が違った景色としてみえてくる面白さを感じる。現代をよりよく生きるためのリベラルアーツの学びが、改めて大切と気づかせてくれる新視点の入門書として読んでおきたい。

NHK出版
発行日:2020年2月10日
237ページ
価格:1500円(税別)
ISBN: 978-4-14-081808-4

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