【新刊紹介】「私は彼のことも自分のことも一生許さない」:船戸優里著『結愛(ゆあ)へ 目黒区虐待死事件母の獄中手記』

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「もうおねがい、ゆるしてください」。親へのこんな反省文を残し、何度も暴力を受け、十分な食事も与えられずに5歳で衰弱死した娘、結愛ちゃん。なぜ、母は最愛の子を守れなかったのか。27歳の母が「結愛と同じような思いをする子がいなくなるように」と深い後悔の中で、自分の気持ちを書き留めた。

私は娘を死なせたということで逮捕された。いや「死なせた」のではなく「殺した」と言われても当然の結果で、「逮捕された」のではなく「逮捕していただいた」と言った方が正確なのかもしれない。――本書のプロローグにある一節だ。

結愛ちゃんは最初の夫との間に生まれた。再婚した相手が暴力を振るった「彼」。長々と説教をし、幼い結愛ちゃんにも「しつけ」として厳しく接した。床に寝転がっていた結愛ちゃんのお腹を、彼はサッカーボールのように思い切り蹴り上げ、「結愛を直さなくちゃいけない」と言った。

彼は、妻と娘に「モデル体型を目指せ」と食事制限も命じていた。「ママ、なんとかしてよ」という目を向ける結愛ちゃん。だが、母(著者)は「ママはもうあなたを助けられない、パパの方が正しいんだよ」と思うようになっていった。彼に怒られないよう、説教が短くなるよう、母と娘は一緒にあの反省文を書いた。

結愛ちゃんは亡くなる数日前に、食べ物を戻すようになった。「いいじゃないか、ダイエットになる」と言う彼。母は病院に連れて行かなくていいかと彼に聞いたが、彼は「(結愛ちゃんを殴ったりした)あざが消えたら」と言うだけだった。

逮捕された後、夫婦は離婚した。裁判で、彼は懲役13年の実刑判決が確定している。著者は一審で懲役8年の判決を受け、控訴中。一度も暴力は振るっていないだけに、刑のバランスが二審で争われることになろう。

つらく悲しい場面が続くが、最後の方で著者はこの事件の原因を突き止めたようだ。「結愛にしつけなんて必要なかったんだと思う。本当にしつけが必要だったのは私たち親だ」と。「相手の気持ちを考えろ」と彼は何度も説教したが、「一番相手の気持ちを考えていなかったのは、あの人だ」。最終章の最後の一行も重い。「私は彼のことも自分のことも一生許さない。」

法廷では十分に明らかとならなかった児童虐待の実相が、本書を通じてわかってきた。

小学館
発行日:2020年2月12日
255ページ
価格:1400円(税別)
ISBN: 978-4-09-388757-1

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