【新刊紹介】二十四節気と七十二候: 山本一・写真、川添智未・文『いろこよみ—風景にみる日本人の心』

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日本には二十四節気と七十二候という季節がある。本書はその旧暦の節々に撮影された風景写真を、春夏秋冬のうつろいにそって綴る。めぐりゆく自然の色彩が頁をめくる度ごとに、あざやかに立ち現れる。

写真家・山本一は折々の季節を感じ、日本中で詩情あふれる風景を撮ってきた。失われつつあるなつかしいふるさとの風景―たとえば、一面に咲く野花の風景、水をたたえて燦めく棚田の風景、山の頂から彼方を見下ろす雲海の風景など。「風景にみる日本人の心」を写したいという一心で、新たな撮影地や過去に訪れた撮影の記録にもとづき、「此の季節は彼の地へ」とカメラを担ぎ出す。

この写真家は長年、会社経営者としても数多くのひとびとと関わりをもってきた。彼の撮る風景には、あたたかな人へのまなざしや自身の人生観があふれている。「ふれあうからこそ、撮影する自然の風景にも情がやどる」それが山本の作品の魅力だ。

柳宗悦の書いた「心偈(こころうた)」にこのような偈がある。「春 花ニヱミ、夏 日ヲアホギ、秋 月ニスミ、 冬 雪トヤスム 自然の四季ではあるが、これを人生の四季と見てもよい。春は花を咲かせて、悦びの春となる。夏は日を慕う心に栄える。やがてこれを経て、秋は寂(さ)び、月に心を澄ます日を迎える。冬は音もなき安らいの時、悦びと憧(あこが)れとは、やがて静けさと安らいに帰ってゆく。これで一カ年の車の輪は、正しく一廻りする。」(『南無阿弥陀仏 付 心偈』 岩波文庫、1986)

本書はまさに日本の風景の「いろこよみ」。「風景にみる日本人の心」をある季節は躍動的に、またある季節は静謐に四季をとおして綴る。

風景写真とともに、唎酒師(ききさけし)で野菜ソムリエでもある川添智未の文が身近な日本の暮らし、歳時を伝える。また本書は「山本一のごちそう帖」を付す。写真家が撮影と同じくらい楽しみにしてきた各地の旬の酒肴の記録だ。写真を撮らずとも山本の旅案内で四季の食彩を訪ねてみるのもいかがだろう。

二十四節気と七十二候は英訳も併記している。出典はnippon.comで、リチャード・メドハーストの翻訳。英訳からもまた折々の生類の営みが豊かに率直に伝わってくる。海外からの客人と旧暦の景色をともに味わってみたい。(ニッポンドットコム 編集部)

求龍堂
発行日:2020年3月16日
120ページ
価格:2000円(税別)
ISBN 978-4-7630-2006-2

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