【新刊紹介】世界の果てまで伸びる“米司法の長い腕”:杉田弘毅著『アメリカの制裁外交』

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イランや北朝鮮などの“敵対国”やテロ組織にとどまらず、その対象とビジネスをする第三国の企業や個人にまで強い圧力をかけていく米国の金融制裁。その力の源泉はドル決済を独占する金融システムにある。本書は、世界のトップ企業、メガバンクですら“白旗”を上げざるを得ない米外交の強力なツールに光をあて、その功罪を論じた労作だ。

2018年5月、米国のトランプ政権は、「イラン核合意」から離脱し、経済制裁を復活させた。この行動に欧州や日本は異を唱えたが、この制裁が外国企業にも適用されてしまうため、結局はイランとの商取引から撤退せざるを得なくなる。

中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長が同年12月にカナダで逮捕された事件も、このイラン制裁がからんでいる。しかし、これが「中国封じ込め」のために米国が仕掛けたなりふり構わぬ外交圧力であることは、火を見るよりも明らかだ。

本書は、2001年の米中枢同時テロを機に変革・強化され、その後さまざまな場面で歴代の米政権が多用してきた経済制裁、特に金融制裁の数々を振り返り、その歴史や変遷、成功・失敗例を分析する。金融制裁という「手段」に光をあてることで、新たな視点から米外交の本質や矛盾、限界が浮き彫りになっていくような読後感がある。

筆者は共同通信でテヘラン支局長、ニューヨーク特派員、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任したベテラン国際ジャーナリスト。豊富な現場経験、米外交当局者との数々の直接取材をもとにした本書の情報量は際立っており、中身の濃さは通常の新書レベルをはるかに超える。

米外交をクールな目で、あくまでもマクロな視線で観察・分析しているのも本書の大きな特徴だ。筆者は米国政治を専門とする一方、ニューヨーク特派員として国連外交を、テヘラン特派員としてイラン・中東と欧米の関係を、精力的に取材した経験がある。論説委員長として世界の政治リーダーとのインタビューも数多い。「世界の国々は米国をどう見ているのか」――、このグローバルな視点が備わっている。(nippon.com編集部)

岩波新書
発行日:2020年2月20日
252ページ
価格:840円(税別)
ISBN: 978-4-00-431824-8

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