【新刊紹介】英語とは、どんな言語か:杉野俊子・田中富士美・野沢恵美子編「英語とつきあうための50の問い」

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世界はどのように英語を使っているのだろうか。本書には、英語を学ぶ前、あるいは教える前に知っておきたいことが詰まっている。

英語は18世紀のイギリス大航海時代からの歴史的背景を経て、有史では例のない「国際共通語」として世界に存在している。EUから英国が脱退しても、英語はその筆頭公用語として母国抜きに使用され続けることになった。英語には広域性と多様性があり、母語話者(ネイティブスピーカー)を介在せずに世界で様々に使用されている。

そもそも「英語」とはどんな言語で、それを学ぶことは何を意味するのだろう。本書は、英語という言語が持つ本質、あるいはその真実を、いくつもの顔を持つ「阿修羅像」、また「宝石のような多面体」と捉え、国内各地の大学教員22名が50の問いについて、それぞれの研究分野から分かりやすく解説している。

第1章「世界で話されている英語」は、世界で英語を日常的に話す人の数のデータをもとにした説明から始まる。第3章「日本での英語の受容と広がり」では、明治から平成までの各時代の英語教育と、特徴のある教授法などが紹介されている。グローバル化によって日本での英語教育はどのように変わっていくのかを論じる中で、こんな問題提起がされている。

「米国、英国を中心とした母語話者英語に偏向し、それを手本にしようと努力することは、子どもたちに英語を使える自信を与えているのだろうか、それとも心の植民地化を植え付けてしまっていないだろうか」と。

第7章の「『多様な英語』への理解を促す教育実践」には、日本国内で地域によって必要な英語教育はそれぞれニーズが異なるのではないかという指摘がある。インバウンド(訪日外国人観光客)が急増する地方都市を例に、その地域の特色や人材の需要を見たうえで、地域に根付く高等教育には「英語使用者になることの目的、意義を知り、コミュニケーションを図る相手も大いに意識した英語教育を位置づけることが理想ではないか」と論じている。

多様な文化を超えた媒介言語としての英語の役割を理解し、グローバル時代に真に対応できる英語教育のあり方を考えるのに役立つ1冊だ。(ニッポンドットコム編集部)

明石書店
発行日:2020年3月31日
286ページ
価格:2700円(税別)
ISBN:978-4-7503-4969-5

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