【新刊紹介】父は日本人、母はフィリピン人:本橋信宏著『ハーフの子供たち』

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1980年代、アジア各国から日本に出稼ぎに来た女性たちは「ジャパゆきさん」と呼ばれた。日本人男性とフィリピン女性の間に生まれた「日比ハーフ」たちが、日本社会で懸命に生きる姿を追った。

日比ハーフが芸能界、スポーツ界で活躍している。独特の出自を生かし、夢を追う6人の若者が本書に登場する。

アンナ(22)は15歳までフィリピンで育ち、家族で日本にやってきた。父が広告の営業に飛び込んだ日本のフィリピンパブで実母と知り合い、結婚してマニラに移った。だが、アンナが5歳の頃に離婚。父は今の母と再婚し、家族は4人増えた。

アンナは日本語が全くわからなかった。1年間、自宅にこもって日本語を学び、公立高校の定時制に合格。入学式の日、チョコレートの「キットカット」を父からの小遣いで1万円分買い、クラスメイト30人に配った。「アンナです。友だちになりましょう」のメッセージを書いて。長い孤独の期間を埋め合わせようと、新しい級友と話がしたかったのだ。

昼間は牛丼店のアルバイトをして卒業し、OLになった。英語、フィリピンのタガログ語、それに日本で学んだ日本語も話せるので、会社にとって心強い人材だ。でも、音楽の仕事に就く夢は捨てていない。

プロボクシングの日本ライト級チャンピオン、吉野修一郎(28)も日本育ちの日比ハーフだ。バス運転手の父がボクシングをやっていたので、父に頼み中学3年から始めた。一度、母の祖国に行ったことがある。母は11人姉妹の8番目で、大家族を助けるため来日した。

吉野はロンドン五輪の予選に敗れ、就職したが、25歳の再挑戦でプロボクシングの道に進んだ。アジアパシフィック王者となり、世界チャンピオンももう夢ではない。「息子が打たれるのは見たくない」と言っていた母も、今はテレビ中継を見ながら応援してくれる。

ノンフィクションなどの作家として活躍する著者は、終章とあとがきでこう書いている。

「昔、日比ハーフは貧困と差別から無縁でなかったが、いまは環境が変わった。もっとも登場した(幸福そうな)6人が日比ハーフの代表例だと言い切るつもりはない。なかには70年代のように悪意の環境におかれて、声なき悲鳴を発している日比ハーフもいることだろう」「国際結婚の狭間に咲いた日比ハーフの子たちに幸あらんことを――」

角川新書
発行日:2020年5月10日
293ページ
価格:960円(税別)
ISBN:978-4-04-082187-0

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