【新刊紹介】香港に希望はあるのか:野嶋剛著『香港とは何か』

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香港に国家安全維持法が導入されて以来、民主派の摘発が相次ぎ、9月の立法会議員選挙も「新型コロナウイルスの感染防止」という不自然な理由で延期された。これからも「一国二制度」で保障されてきた香港の民主や自由が維持される希望はあるのか。香港の中国化は止まらないのではないか。そんな問いに、香港を追い続けてきたジャーナリストである著者は本書で「香港は、終わらない」と書く。

中華圏を得意分野とするジャーナリストである著者は、香港留学の経験を持ち、香港へ足しげく通いながら2014年の雨傘運動や19年の抗議運動の取材を続けてきた。

香港では若い世代を中心に「自分たちは香港人だ」という香港アイデンティティが強まっている。香港に突きつけられているのは、異質な政治体制を持つ超大国の「中国」とどう向き合えばいいのかという課題であり、日本や世界の国々も香港問題は他人事にはならないと著者は指摘する。一方、著者は、香港を「東洋の真珠」たらしめてきた特徴を、その「境界性」にあると指摘し、こう描写する。

「香港は、中国であって、完全な中国ではない。香港は、東洋であって、完全な東洋ではない。香港は、アジアであって完全なアジアでもない。香港は、中華世界であって、完全な中華世界でもない。西洋的な制度や文化も生きているが、もちろん西洋でもない」

過去の中国の鄧小平、江沢民、胡錦濤らの指導者は香港の価値がその境界性にあることを理解し、香港を「金の卵を産むガチョウ」として大切に活用することを基本政策としてきた。しかし、習近平国家主席は愛国主義を掲げながら香港の中国化を進めた結果、そうした香港らしさが消されそうになり、逆に香港情勢の混乱を招く悪循環を生んでいるという。

本書には「日本からみた香港」「中国から見た香港」「台湾から見た香港」などの多角的な香港理解の視座が提供されている。香港の民主化運動のリーダーたちに密着して彼らの思いを描き出す章や、2019年の抗議行動における香港人の深層心理に迫った章もある。映画を通して香港を振り返るところもあるなど、総合的な香港理解を提示するアプローチをとっており、激動の時期を迎える香港を日本人が理解するにあたって非常に役立つ一冊になっている。(ニッポンドットコム編集部)

筑摩書房
発行日:8月10日
256ページ
価格:840円(税別)
ISBN:978-4-480-07326-6

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