【新刊紹介】コロナ禍のすべてを克明に記す:門田隆将著『疫病2020』

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世界が苦しんでいる新型コロナウイルス感染症の始まりから、丁寧に事実を追いかけたノンフィクション。日本政府の失策や、発生源問題で中国の隠したかったことなどが克明に記されている。

元「週刊新潮」記者で作家の著者は、今年1月、台湾総統選などの取材で現地を走り回っていた。同月15日、日本への帰国便に乗るため、台北の国際空港に行くと、空港職員はほぼ全員がマスクをつけており、臨戦態勢に入っていた。

台湾政府は中国・武漢の李文亮医師が昨年12月30日に初めてウイルスのことを発信した翌日から、素早い動きを見せた。1月1日には台湾に入国する中国人全員に検温を開始。感染症の専門家会議が同5日に招集され、警戒レベルを引き上げていた。

今回の「新型コロナ」で最小限の被害に抑え込んだ台湾とは対照的に、日本の対応はあまりにも遅かった。中国国内での感染拡大を受けて、中国人が大移動する1月25日からの「春節」を前に、各国が厳しい入国制限などの措置を取り始める中、日本では武漢からの入国者に症状に関する質問票を配ることにした。

中国ではツイッターなどで「搭乗前に解熱剤を飲み、発熱と咳(せき)の項にNOとマルをすれば、日本には入国できる」という情報が飛び交っていた。また、日本で専門家会議が開かれたのは、台湾に40日以上遅れて2月16日だった。

政権理解者だった著者の厳しい批判

著者はこれまで安倍政権の理解者として知られていたが、本書では日本が遅れをとった原因について、首相官邸や厚労省を厳しく批判している。「コロナ対策を『官僚』に依存して乗り切ろうとした安倍首相が信じがたいリーダーシップの欠如を露呈した」と。

著者はこんな事実も指摘している。日本では感染拡大で中国と同じような目に遭い、パニックに陥ることも想像できず、自治体がマスクや医療用防護服の「尋常ならざる数」の支援を中国に行った。東京都は医療用防護服を、数回にわたり計33万6000着も送った。「あきれるのは、迫りくる危機が明らかになった2月18日以降に20万着も贈っていることである」と著者は記す。

発生源とも指摘されている「武漢病毒研究所」の考察も読み応えがある。関係者の論文や、過去のトラブルなどを調べ上げ、同研究所の「あまりにずさんな実験風景や管理体制」を明らかにしている。

本書に臨場感があふれているのは、著者自身がその時に実際に発信したツイートが散りばめられているからだろう。著者の怒り、喝采に、読者が共感しながら読み進めてしまうのだ。

5月25日に緊急事態宣言の全面解除となった。首相の会見を聞きながら、政権が失策を続けながらも、踏ん張り抜く日本人の底力を考え、勝利したのは政府ではなく国民だったと、著者は思う。この日はこうツイートされた。

「緊急事態宣言が解除。死亡率が異常に低い日本を米誌は『奇妙な成功』と評し、香港紙は『称賛すべき規範意識の高さ』と。『他人を思いやる気持ちが強い日本文化』や『日本人は自分を律しルールを守る』というものも。医療従事者の人智を超えた踏ん張りのお蔭。全てが誇らしい」

産経新聞出版
発行日:2020年6月27日
382ページ
価格:1600円(税別)
ISBN:978-4-8191-1387-8

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