【新刊紹介】超少子化と貧困・孤立化、最先端のデジタル社会が併存する驚き:春木育美著『韓国社会の現在』

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電子政府や教育分野でのITC活用、キャッシュレス化などで世界の最先端を行く韓国。一方で若者の失業率は高く、重い教育費の負担、出生率が1を切る超少子化、格差の拡大など、深刻な社会問題に直面している。本書は、豊富なエピソードとともに等身大の韓国社会の姿を紹介。「韓国の苦悩は日本の近未来でもある」と警鐘を鳴らす。

政治家や政府高官に連なる人が次々にやり玉に挙がる、韓国の「不正入学疑惑」スキャンダル。これに代表される“学歴「超」偏重社会”や、サムスンや現代などの大企業グループが日本以上に幅を利かす“財閥支配”、上下関係に非常に厳しい”儒教文化”――、これらが一般的な日本人の思い浮かべる、これまでの代表的な韓国社会のイメージだろう。

日本国内で報じられる韓国のニュースは、昨年大幅に悪化した日韓関係をめぐるものが大半で、韓国社会のありのままを説明・分析するものは少ない。しかし、本書のページをめくると、ここ20年ほどで激変した社会の姿が、大きな驚きとともに目の前に提示される。日本も韓国も、社会が直面する課題はそれほど変わらない。少子高齢化、格差の拡大、教育問題などなど。しかし、これら社会課題の深刻さ、極端さには目をみはる部分も多く、どうしても日本の場合と比較しながら読み進むことになる。

「ヘル朝鮮(ヘルチョソン)」という言葉に代表される、韓国の若者の生きづらさ。それは過酷な受験戦争に代表される”超競争社会”を経ても、就業率が低迷し、「結婚できない、しない社会」が待ち受けている現状にある。著者は、この競争社会の結果としての格差の実態について、豊富なエピソードを交えて分かりやすく説明する。単身世帯の増加、「結婚はしたくない」という女性が20代で6割近くもいること、政府が若者の海外就労・移民をバックアップしていることなど、苦悩する社会の姿が次々に紹介される。

一方、日本とは全く異なる韓国の姿として、デジタル先進国として世界のトップを走る一面があり、この内容も非常に興味深い。税優遇により国策でクレジットカード使用を推進し、一躍キャッシュレス大国になった背景と現実。国家がありとあらゆる個人データを収集し、管理する実態。ほとんどすべての行政手続きがオンラインで行えるシステムが既に稼働していることなど、まさに驚きの連続だ。

男尊女卑の傾向が強かった社会が急激に変わりつつあると同時に、男女のジェンダー対立が先鋭化していること、“人権派”文在寅氏の大統領就任後に封建的な学校文化が様変わりしていることなども盛り込み、目まぐるしく動く韓国社会を幅広く紹介した好著。これらのさまざまな社会問題の歴史的・社会的な背景、韓国政府が進めた各種政策とその功罪についても細かく説明している。

著者は現在、日韓文化交流基金の執行理事として両国交流の最前線で活動。早稲田大学韓国語研究所の招聘研究員も務めている。

(nippon.com編集部 石井雅仁)

中公新書
発行日:2020年8月25日
256ページ
価格:880円(税別)
ISBN: 978-4-12-102602-6

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