「お金」「筋肉」「近所」の「3キン」が長寿社会のキーワード:新刊「シニア六法」の住田裕子弁護士に聞く

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人気テレビ番組に出演し、「ママさん弁護士」「法律の母」とも言われた住田裕子さん(69)が、 高齢者とその家族に役立つ法律の解説や対策などを集めた新刊「シニア六法」を上梓した。「この本は自分のこれまでの私の集大成」と語る住田さんに、長寿社会を心豊かに過ごす秘訣などを聞いた。

住田 裕子 SUMITA Hiroko

弁護士。1951年、兵庫県加古川市出身。東京大学法学部卒業。東京地検検事に任官。法務省民事局付検事(民法改正担当)、全省庁で女性初の大臣秘書官などを経て、96年、弁護士に。内閣府、総務省、防衛省などの審議会の委員、会長。「ミヤネ屋」、「アッコにおまかせ」など、多くの人気テレビ番組に出演。2010年にNPO法人長寿安心会を設立し、代表理事に。

高齢者被害を無くしたい思いを込めて

「私自身がれっきとしたシニア世代となり、クライアントも高齢になってきて、お金の問題、これからの人生の相談がたくさんありました。その実例に基づいて、トラブルを避けるためにはどう備えておくべきか、これらのリスクと対応策をまとめたのがこの本です。これまでの私の経験、考えてきたことなど、すべてを入れた集大成になりました」と住田さんは話す。

住田さんにはこれまで著書や、共著で出版した作品が数冊あるが、今回は特別な思いを込めた。一昨年に実母を90歳で見送り、また今年、3人目の孫に恵まれて、自分の人生に一区切りがついたと感じ、自分の次の世代、その次の世代にも伝えておくべきものを書き残しておこうと思った。それが、本書を編み出すきっかけになったという。

高齢者が被害者になってほしくない、との思いで住田さんが最初に取り上げたのが認知症のトラブルだ。犯罪被害を招きやすくする認知症の症状で、特に注意すべきなのは初期の「引きこもり状態」と「取り繕い反応」。自信をなくして引きこもり状態にある寂しい高齢者は、“自称息子”などに助けを求められると、頼りにされていると意気に感じて、多額の金銭をだまし取られてしまう。

インタビューに答える住田裕子さん(撮影:天野久樹)
インタビューに答える住田裕子さん(撮影:天野久樹)

認知症の特徴で、犯行グループの誘導に乗りやすいのが取り繕い反応。相手の言っていることが理解できていないのに、わかったふりをしてしまう人は、犯行グループに巧妙に言いくるめられて、言われるがままに老後の資金を根こそぎ奪われてしまうのだ。

「シニア世代の方は元気なうちに、こうしたことがあるのを知っておいていただきたい。また、家族ら周囲の人たちも、年齢を重ねるにつれ、こうした傾向が出てきたら、きちんと見守ってほしい」と住田さんは訴える。

後妻業にも警戒を

結婚がらみの詐欺として、「後妻業」の例も紹介されている。まじめに勤め上げて老境に入った独り身男性の前に、かいがいしく世話をやいてくれる女性が現れる。男性は結婚を考えるようになるが、どんどん体調は悪くなり、死亡。葬儀で親族が集まったところに、その女性が「妻です」と名乗り出る。いつの間にか婚姻届が出されていた……。男女が逆で、老境の女性が近づいてきた若い男性に貢ぎ、老後資金を吸い取られてしまうこともある。

法律問題として見ると、婚姻届の無効を証明するのも、死亡の原因を突き止めるのも難しい。妻と名乗り出た女性の周辺では、数人の不審死があったという。民法891条第1号には、「故意に被相続人(中略)を死亡させ、または死亡させようとしたために刑に処せられた者」は、相続人になることができない、と定められている。

「あまりにも熱心に接近する人がいる時は、その人の生活状況や結婚歴などをチェックすることも必要かもしれません。遺言を迫られた時は、ぜひ調査しましょう」と本書は警告している。

残される家族らの負担を減らすためにも、生前整理が欠かせない。財産目録やエンディングノートに暗証番号やパスワードが分かるようにしておかないと、後が大変だ。

デジタル時代の今日、特に注意しなければならないのが、パソコンのデータなど、サイバー空間にある財産情報。本人が一人でインターネットの画面越しで手続きしたものが多く、家族が知らないものも少なくない。例えば株式や投資信託など、ネット証券に預けているものは、ある年齢に達したら現金化しておいた方がいい。

老後はできるだけ処理が容易な資産にしておくことが、お勧めだ。また、パソコンなどに保存してある外に出たらまずい情報や、余計な情報の「断捨離」も早めに済ませておいた方がいい。

NPO長寿安心会の活動をライフワークに

住田さんは20歳代で検事となり、40歳代で弁護士に転職。60歳になって、それまで11年間レギュラー出演していたテレビの人気番組「行列のできる法律相談所」を降り、NPO法人「長寿安心会」を立ち上げた。高齢者が地域で安全安心に暮らす社会づくりをライフワークにしている。

長寿社会を心豊かに過ごすための秘訣として、住田さんは「3つのキン」をキーワードに掲げている。その一つが「金」。お金は何をするにも先立つものだ。しっかりとしたライフプランを立て、また犯罪グループにだまされないよう注意が必要だ。

二つ目は筋肉の「筋」。認知症にならずに健康寿命を延ばすために、全身の血流を盛んにする運動をすること。特に加齢で衰えがちな筋肉を動かす「筋トレ」は、脳や血管に良い作用が働き、効果的という。意識して体を動かし、運動を習慣化するといい。

三つ目が「近」。近所の人との交流は脳の活性化になり、認知症の予防になる。相談相手が近くにいることは、高齢者にはとても助かる。インターネットによる交流だけでなく、直接に会って話す交わりが大事だ。

高齢になることを想定して、だんだんと身の丈にあった生活に変革することを勧める住田さんが、実践したことがある。二人の子が独立したのを機会に、ダウンサイジングの一環として、3階建ての自宅を売り、マンションに転居した。近くに娘さん一家も住んでおり、孫たちとの交流が何よりの楽しみになっている。

弁護士としての仕事は以前の半分以下にして、NPOの活動、講演会、テレビ出演、そして健康のためのジム通いを続け、各地を走り回る日々が今も続く。

バナー写真:住田裕子弁護士(左)と住田さんが監修・著した『シニア六法』(右)

監修・著 住田裕子
執筆協力 介護支援専門員、証券相続士、お金と暮らしと夫婦問題の専門家、弁護士ら計6名
発行:KADOKAWA
A5変型判、270ページ
価格:1700円+税
発行日:2020年8月28日
ISBN:978-4-04-604800-4

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