【新刊紹介】警察と自衛隊は何を知っていたか:西法太郎著『三島由紀夫事件50年目の証言』

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50年前の1970年11月25日、作家三島由紀夫はなぜ、自衛隊内の幹部室で切腹と介錯による自決ができたのか。「三島事件」で見落とされてきた重大な答えに、三島研究を続ける著者(作家)が迫っていく。

この事件は、ノーベル文学賞の候補にも挙げられていた人気作家、三島(当時45歳)が、民兵組織「楯の会」の学生4人とともに、東京・市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面の総監室に入り、総監を監禁。三島はバルコニーから、自衛隊の決起や憲法改正を求める演説をした後、総監室で切腹。三島を介錯した学生の森田必勝(まさかつ)も同じく切腹した、衝撃的な出来事だった。

三島らは事件決行の打ち合わせや予行演習を、都内のコーヒーショップやレストラン、ホテルなど、公安警察にマークされやすい場所で行っていた。また、三島は決行の4か月前、親しいNHK記者に「もし僕が切腹すると決めたら、生中継するかい」と尋ねていた。

本書のサブタイトルは「警察と自衛隊は何を知っていたか」。当時の警察、自衛隊関係者から、著者は興味深い話を引き出している。警察からは、三島の友人で、事件の2か月前まで警視庁の警備課長をしていた佐々淳行氏の証言。

「日時までは分からなかったが、割腹自殺までするとは思っていなかったが、警察は三島が何かやるだろうということはつかんでいた」

警備課長だった佐々氏の自衛隊側の相手となる東部方面二部長(事件当時は異動)の証言。「市ヶ谷駐屯地に配属されていた銃剣士10人ほどに籠手(こて=戦闘時の手や腕の防具)などを装備させ、木銃を持たせてすぐ突入させていれば、三島氏を死なすことはなかった」

事件の刑事裁判で、三島と親しかった当時の中曽根防衛庁長官は「三島君がやった事件が覚悟の事件であって」「三島君が念願していたことについても、ある程度の同情を示しつつ――」と微妙な言い方をした。

著者はこう推論する。三島が自決したいなら、防衛庁長官は同情を示しつつ、やらせてやった。そして警察は、三島と森田が自決し、監禁した総監は殺さず、残った学生3人は投降することまで、つかんでいたのではないか。

第1次中曽根内閣の後藤田正晴官房長官は三島事件当時の警察庁長官、秦野章法相は事件当時の警視総監。三島事件の極秘の公安情報に接することができた警察トップがそろったのは、「偶然だったろうか」と著者は記す。

新潮社
発行日:2020年9月20日
301ページ
価格:1800円(税別)
ISBN:978-4-10-353581-2

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