【新刊紹介】最後に鉱脈を掘り当てる者:大沢在昌『冬の狩人』

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『新宿鮫』に並ぶ人気シリーズ『狩人』の最新刊である。新宿署の暴力団担当刑事・佐江は、所轄外の迷宮入りになっていた凶悪事件に巻き込まれていく。例によって違法捜査すれすれの手法で悪人を追い詰めていくのだが、そこは手練れの作家の手によるもの、筆の運びはいっそう痛快で、銃弾飛び交うラストまで一気に読まされる。年末年始の読書にいかがだろうか。

H県警察本部のホームページに、未解決重要事件の情報を受け付けるメールボックスがある。そこに、重要参考人として捜査本部が行方を追っていた人物から、メールが送られてきた。それが物語の発端である。

送信者の名前は「阿部佳奈」。3年前、地元の老舗料亭で会合中の客4名が何者かによって銃撃され、1名が現場から姿を消していた。それが彼女だったのだ。
死亡したのはいずれも県内の有力者で、ひとりは地元企業の顧問弁護士。彼女は弁護士の秘書として同席し、当時、32歳だった。

捜査は行き詰っていた。そこへ、事件解明のカギを握る「佳奈」から、突然、今になって事情を説明したいと連絡が来たのである。
出頭する条件は、新宿署組織犯罪対策課の佐江警部補に、身辺を保護してもらうこと。なぜ、H県の事件に管轄外の東京の刑事の名前が出てくるのか。「保護」とはなにを意味するのか。女と佐江とは一面識もない。そこに大きな謎がある。

本シリーズの過去作品の愛読者はすでにご承知と思うが、強面で鳴るベテラン刑事の佐江は、暴力団からも恐れられ、署内でも悪徳警官として敬遠されている。
これまで数々の凶悪事件に遭遇、しばしば銃撃戦に巻き込まれる。彼自身、弾丸を撃ち込まれたこともあるが、九死に一生を得て、事件を解決に導いてきた。

本作で初めて『狩人』を読まれる方でも、十分楽しめることは保証する。
H県警は、渋々、佐江の協力を求め、お目付け役として新米刑事の川村を張り付けた。佐江は「阿部佳奈」に接触する。そこから真相解明のために、次々と悪人を追い込んでいく痛快な描写は、作者自家薬籠中のもの。
事件の背後には、H県を牛耳る地元有力同族企業のスキャンダルと、それに付け込む暴力団とが絡んでいるが、そこに関わる登場人物は多彩で、作者の巧妙な仕掛けは一筋縄ではいかない。そこに本作の読みどころがある。

本シリーズが人気を呼ぶのはなぜか。当初、暴力的な違法捜査に批判的だった川村は、次第に佐江の確固たる信念に惹かれていく。佐江は、ただの悪徳ではない。彼も、次第に要領の悪い新米刑事に好感を持つ。それはこんな理由から。
〈出世欲に目がくらんだ警察官は、いつかどこかで墓穴を掘る。といって与えられた仕事しかしない者にも限界がある。愚直だが、常に気持ちを途切らせない人間が最後に鉱脈を掘り当てるのだ。〉
孤軍奮闘する佐江の魅力を、たっぷり堪能してほしい。

幻冬舎
発行日:2020年11月20日
新書版:566ページ
価格:1800円(税抜き)
ISBN:978-4-344-03695-6

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