【新刊紹介】「一強体制」の狭間で:竹中治堅著『コロナ危機の政治 安倍政権vs.知事』

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新型コロナウイルス感染症の猛威に翻弄された2020年の日本社会。「体調が万全でない中、大切な政治判断を誤ってはならない」として安倍晋三首相が8月に辞意を表明した。筆者は政治学者として、主に第1波から第2波にかけての政府・各都道府県知事の対処・政策決定過程に光をあてる。

「Go Toトラベル」「Go To イート」など、政府が行う新型コロナ「経済支援策」が第3波の感染拡大を受けて論議を呼んでいる。東京、大阪などを出発地とする旅行者について、専門家は「出ていかないことも必要だ」と強調。しかし、政府は経済を重視する立場から、「Go To」出発分の停止を止めることには消極的だ。

この件については、全国知事会長の飯泉嘉門徳島県知事も西村康稔経済再生担当相に検討を求め、11月30日現在、政府の対応が焦点となっている、

「安倍(菅)政権 対 知事」の意見の相違は、コロナ対策が大きな政策課題となった3月以降、何度となく顕在化した。特に、東京都が4月、広範な業種に対する休業要請を行ったが、筆者によると、これは政府の想定(まずは外出自粛で様子をみる)とは大きく異なっていた。他の府県の多くも程度の差はあれ休業要請を実施し、東京都の影響力の大きさを示すこととなった。

この時期、安倍政権は経済に悪影響を及ぼすことを恐れ、休業要請には及び腰だった。しかし、小池都知事は感染者の急増に危機感を覚えていた。

もう一つ、地方自治体の動きが先進事例となったケースもある。大阪府の吉村洋文知事は3月、感染者の症状に応じて入院先、滞在先を振り分ける方針を示し、その調整を一元的に管理する組織を導入した。この方式は国がモデルとして採用し、各自治体にこの方式を勧めることになった。

「安倍一強」と言われた政治体制の中、このような「政府の限界」が数多く示されることは、非常に興味深い。地方分権改革が進む中、感染症対策はそれぞれの地域が主体的に取り組む施策となった。保健所を持つ政令市や特別区などは独自性を強めており、都道府県の指導下にないということも今回改めて広く知られることになった。

筆者によると、政府と各自治体はいずれも、感染拡大防止に向けた「キャパシティー」(対応能力)の不足に悩み、特に第1波の際は十分な対応を取ることができなかった。検査キャパシティー、医療機関のキャパシティー、保健所のキャパシティー、いずれも第2波ではかなり改善されたが。第3波を迎えて予断を許さない状況が続く。

本書はコロナ危機の政治決定過程がテーマだが、3月から9月ごろまでのコロナ関連の細かい情報が詰め込まれており、「ハンドブック」としても使うことができるだろう。巻末の月表や、各種経済対策の内容などコンパクトにまとまっている、

安倍首相の「自宅映像の投稿」(4月)や、アベノマスク送付にも触れている。わずか半年前のことだが、遠い昔のようにも思える。

筆者は、政策研究大学院大学教授。他の著書に『戦前日本における民主化の挫折』『首相支配―日本政治の変貌』『参議院とは何か』(大佛次郎論壇賞)などがある。

(nippon.com編集部 石井雅仁)

中公新書  288ページ
定価 980円+税
2020年11月24日
ISBN 9784121026200

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