【新刊紹介】今の社会が窮屈なあなたへ:加藤秀樹著『ツルツル世界とザラザラ世界 世界二制度のすすめ』

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科学技術や経済成長で豊かになった現代社会。しかし、「コロナ・パンデミック」による社会の変化を見ると、これまでの世界が幻だったとも思えてくる。政策シンクタンクの代表で慶応大学教授の著者が、大胆な発想の転換を勧めている。

本書には「変てこな表現」がたくさん出てくる。書名にもなっているが、「ツルツル世界」とは、差異や多様性がなくなり、画一で均質のツルツルにした社会で、経済も自由化が進み、IT技術による瞬時の情報流通が加わって、快適に思える生活を可能にした。

一方、「ザラザラ世界」は、生活も仕事もスピードが緩やかで、食事も遊びもお金で買うよりも、自分か、家族か、仲間と一緒に作ることが多い。経済水準は「ツルツル」より下がるが、人間関係の濃い社会だ。人が余裕を持ち、「生き物としての人間度が高い」社会でもある。

人為的に進めてきた「ツルツル化」の結果、地球環境問題など弊害が目立ってきて、不安定な社会になってきた。そこで、「ザラザラ」な世界を作ってみようと、著者は提案する。「生き物としての人間」の要素を取り戻す試みでもある。

まずは時間稼ぎの策として、二つの世界を併存させようと考える。両方が共存した例は珍しくない。2006年ノーベル平和賞の対象となった、バングラデシュの農村部に住む最貧層向けの銀行もそうだ。金融は最もツルツルのイメージが強いが、農村の女性らに担保を求めず融資する「草の根金融」はザラザラだ。

AIはツルツル社会で多用され、ザラザラ社会ではあまり使われない。AI中心のツルツル社会は豊かで、家事もAIがするので快適になる。しかし、現代の日本人は科学技術をフル活用した結果、既に人間性をかなり失っている。著者は最後にこう予言する。

「ツルツル社会はパターン化して徐々に活力を失い、想定外の大事件にはうまく対応できなくなるだろう。新しい感染症や大災害などに、とりわけ弱さをさらけ出すと思う。そうなると結局、多くの人は『ザラザラ』の方に移っていく」

この本は一般書店にはなく、AmazonかKindleでしか入手できない。基本的には在庫もなく、紙の無駄もないという。

発行:スピーディ
発行日:2020年12月7日
258ページ
価格:2530円(配送料込み)

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