【新刊紹介】社会の分断を乗り越える倫理とは:森本あんり著『不寛容論~アメリカが生んだ「共存」の哲学』

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米国で起きた前代未聞の議会襲撃事件が象徴するように、異なる価値観・意見から目を背け、社会の対立・分断をエスカレートさせる言説、風潮が世界中で力を強めつつある。本書は、この「凶暴な非寛容社会への転化」を防ぐため、これまでのさまざまな「寛容論」を問い直し、歴史的な視野を加えて読者に示す。

著者の森本あんり氏(国際基督教大学教授)は、米国のキリスト教思想史、政治思想史に造詣が深い神学・宗教学者。2015年に出版された『反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)は、反インテリが折に触れてもてはやされる米国の風土を、その独特なキリスト教の歴史の歩みを軸に分析し、当時吹き荒れた「トランプ旋風」の背景を読み解く好書として大きな注目を集めた。

本書の『不寛容論』も、タイトルを一見すると社会階層間の亀裂・分断が極限に達したかに見える現代米国の社会・思想的状況と関連したテーマなのかと連想してしまう。だが、それは早とちりだった。筆者は今回、異なる価値観を持つ人々の共存を可能にする「寛容さとは何か」をより深く理解するため、あえて「不寛容というもの」に光をあてる。「寛容=善」という”きれいごと”の理解にはくみせず、「寛容」という概念はまず先に「不寛容」(という人間の負の側面)が存在してこそ成立するのだと説明する。

ここで、「不寛容」と「寛容」の関係を問い直し、より考えを深めるために取り上げるのは、17世紀の米植民地に生きたピューリタン(清教徒)、ロジャー・ウィリアムズ(1603年ごろ~1683年)という人物だ。ジョン・ロックやヴォルテールといった近代の啓蒙思想家より50年以上も前に、進んだ寛容論を唱え、現在の米ロードアイランド州にあたる植民地で史上初の政教分離社会を建設した。

英国での宗教迫害を逃れて米ニューイングランドに渡ったピューリタンは、自らが植民地建設者の立場に立つと、バプテスト、クエーカーらに対し不寛容な姿勢に転ずる。ウィリアムズはこれに反発し、プリマス植民地を追われて現在のプロビデンス(ロードアイランド州の州都)を建設するが、そこであらゆる宗派、宗教への寛容を論じ、先住民とも対等な友好関係を築いた。

一方で、ロードアイランド植民地はその統治の寛容さ、自由さから、地域運営において様々な困難に遭遇する。ここでウィリアムズは指導者として、「寛容」と「不寛容」のせめぎ合いに苦悩する。著者は彼の思想・実践を詳しく振り返り、また現代学会における彼の評価を紹介しながら、「寛容」と「不寛容」のさまざまな関係性を明らかにする。

宗教改革以前のカトリック中世における寛容の概念にも、一章が割かれている。当時の人々にとって「寛容とは『原理』ではなく『実利』」「比較の上でより小さな悪を選び取ることだった」などの著者の指摘は、非常に興味深い。

文・石井雅仁(nippon.com編集部)

新潮選書
発行日:2020年12月15日
304ページ
価格:1600円(税抜き)
ISBN 978-4-106-03860-0

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