【新刊紹介】いまや「戦闘領域」となった宇宙の安全保障:青木節子著『中国が宇宙を支配する日 宇宙安保の現代史』

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本書は、いま宇宙で何が起こっているのか、その現実をわかりやすく解説してくれる。もはや宇宙はファンタジーだけでは語れない。中国は、米ソ両超大国を凌ぐ勢いで「宇宙覇権」に邁進している。「宇宙安保」の歴史と現状の問題点、日本の宇宙政策を、内閣府宇宙政策委員会委員を務めるなど、斯界の第一人者である著者が丹念に紐解いていく。

本書で明らかにされる宇宙の現実は我々の想像を超えている。
2016年8月、中国は量子暗号通信技術を搭載した世界初の衛星を打ち上げた。この通信技術は、原理的に盗聴・傍受・解読が不可能とされるシステムで、中国は軍事で圧倒的に優位な立場となる。米国はまだ開発できていない。

ここに至るまで、中国は衛星の打ち上げ回数では2012年に米国を抜いて世界一になっている。あわせて、より精度の高い衛星データ取得をめざし、世界各地に続々と地上局を開設。それは宇宙版「一帯一路」というべきもので、主に東南アジアやラテンアメリカ、アフリカの国々に働きかけ、無償で衛星の製造・打ち上げから、その衛星をコントロールする地上局の建設まで請け負っている。

途上国には管理運用するノウハウがないので、中国から要員が送り込まれている。中国は、こうした援助をきっかけに、技術面だけでなく、相手国の公共事業への優先参加権や地下資源の採掘権の確保など、経済面でも支配従属の関係をつくっている。

2019年1月、中国は世界で初めて月の裏側に探査機を着陸させ、20年7月には火星探査機の打ち上げにも成功した。宇宙条約では、宇宙空間や天体の領有は認めていないが、地下資源の所有権については明記されていない。中国は他国に先駆けて資源開発に着手し、既成事実化した上で占有権を主張するのではないか。

米中「スターウォーズ」は現実のものとなりつつある。
中国はすでに宇宙空間での他国の衛星を攻撃する能力を有している。2007年、中国は米ソに次いで、対衛星攻撃の実験を挙行した。これは自国の老朽化した衛星にミサイル攻撃を加え破壊したというもの。以降、さらに他国の衛星を監視、捕獲、追撃できる「ストーカー衛星」の実験を繰り返し、実際に米国の衛星を追尾した事例も確認されているという。

これに対抗すべく、米国は統合宇宙軍を創設。同盟国、友好国との間に、宇宙監視ネットワークを構築している。日本も欧米にならい、2015年に決定した第4次宇宙基本計画において、初めて宇宙は「戦闘領域」になったと言及し、20年には自衛隊内に宇宙作戦隊を設立した。
こうした動きから読み取れるのは、今後、「宇宙版日米同盟」が強化されていくということである。米中衝突は、宇宙空間でも始まっているのだ。

(本書はニッポンドットコムの連載に大幅加筆したものです)

新潮社
発行日:2021年3月20日
新書版:221ページ
価格:760円(税抜き)
ISBN:978-4-10-610898-3

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