【新刊紹介】「私が考える日本の歴史文化の特性」:上野誠著『教会と千歳飴 日本文化、知恵の創造力』

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われわれ日本人が寄って立つ思考や行動様式は、どういう歴史をたどって培われてきたものなのか。そうした関心に答えるべく、万葉学研究の第一人者である著者が、古典や数々の研究書を紐解きながら、自身の体験も交え、ユーモア溢れる筆致で縦横無尽に語り尽くす。

本書を面白おかしく読んだのち、読者は、きっと、いささかの教養が身に着いたと得した気分になるのではないだろうか。

著者は、「・・・学問的とはいえない感覚的な記述もはなはだ多い。では、私は、この本で何を語りたかったのであろうか。それは、六十歳の今の私が考える日本の歴史文化の特性、今の私が考える世界像を、余すところなく自由に語ってみたかったのである」と書いている。本書の内容は学術的ではあるけれど、平易な語り口で一気に読める。

著者が育った地元では、母親の発案でキリスト教会でも子供たちに千歳飴を配り、七五三を祝っていたという。それがタイトルの由来になっているのだが、身近なところで神仏が「習合」していたというわけだ。「何でも教」だった著者の実家と同様、古来より、日本では様々な宗教が対立することなく根付いてきた。そこに日本人の優れた知恵があるとして、著者の持論が展開されていく。

本書は「農耕の知恵」に始まり、「交易の知恵」「宗教~」「政治~」「芸術~」「歴史~」と6章に分かれ、著者はそれぞれの項目について、日本人が築いてきた「文化」あるいは「知恵」とは何かを詳述していく。
全体を通し、著者の言わんとするところを煎じ詰めれば、日本の特性とは「互敬と和」で成り立っているということだ。

だから、日本型民主主義では多数決は好まれず、リーダーには時間をかけた根回しと調整能力が求められる。日本の会議が長いのは、議論をするためではなく、参加者を納得させるためのもの。むしろリーダーは大愚であることを求められ、「・・・強権を発動したリーダーは、発動した時点で失格なのだ。日本のリーダーとは、お願いしたり、謝ったりする人のことなのだ」と記し、そこに「功罪がある」と看破する(政治の知恵)。

芸術とは、美術館であれ庭園であれ、置かれた場所との関係性によって成り立っている。京都・龍安寺の石庭の石も、そこになければただの石である。翻って「床の間は日本家屋の芸術センター」であり、「日本の芸道は客をもてなすところに始発点がある」と説く(芸術の知恵)。

日本人は、米と魚中心の食文化を作っていった。それはなぜなのか(農業の知恵)。「藁しべ長者の話は経済の道理を語る物語である」(交易の知恵)。「日本は科挙のない国」であり「宦官がいない」ことで中国・朝鮮半島とは異なる文化を築いていった(歴史の知恵)。
どこを読んでも腑に落ちる。

小学館
発行日:2021年4月7日
新書版:270ページ
価格:1320円(税込み)
ISBN:978-4-09-388815-8

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