【新刊紹介】アジアを噛みしめる「スペシャル料理」:吉村剛史著『アジア血風録』

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常に激しく変化するアジア情勢はニュースの宝庫だ。台湾、中国、ベトナム、韓国を縦横無尽に飛び回り、スクープを連発してきたジャーナリストで元産経新聞台北支局長の吉村剛史氏初の著書であり、アジアの最新事情が詰まった一冊が刊行された。

著者の吉村剛史は、アジアを彷徨う巨象である。ジャーナリストとして身を立てて30年あまり、その100メートル先からでも見分けがつく大きな体をくねらせ、鋭敏な嗅覚を全開にして、今日もアジアのどこかの地を巡っている――。

そんな著者も昨年1月に、台湾総統選挙の体当たり取材に行ってからというもの、この一年ほどは、天衣無縫、自由奔放な生活がままならなかった。コロナウイルスのせいである。

それでも著者は冬眠していたのではなく、パソコンに向かって、本を書いていた。そして今回、「おぎゃあ」と生まれたのが『アジア血風録』(MdN新書)だ。

本書は、第1章…中国-『拘束・拷問体験記』、第2章…台湾-親台から知台への脱皮、第3章…ベトナム-残留日本兵の手記、第4章…朝鮮半島-許永中独白録、第5章…WHOと中国、台湾、から成る。

オムニバス形式になっているが、これらはいずれも、著者が日本を取り巻くアジアをテーマに仕掛けたプロレスだ。血と汗が飛び交い、傷を負い、摩滅する物語だ。だが観客(読者)にとっては、痛快無比である。

今回、「吉村ワールド」を堪能して再認識したが、著者の文章を貫くのは、台湾に対する愛情である。それは、2006年から07年の台湾大学留学と、2011年から14年までの3年間に及ぶ『産経新聞』台北支局長時代に、研磨されたものだろう。台湾を語り出すと、恵比寿顔になる。

それでも、眼は嗤っていない。冷徹にかの島を見据えている。日本語学習熱が台湾で冷めかけているという問題に絡めて、著者はこう記す。

「あらゆる面で日本は先進的だと信じてきたにもかかわらず、新型コロナ対応での台湾の危機管理能力が日本を凌ぎ、『日本神話』が崩壊するさまをみせつけられたこともあって、今後台湾で日本語熱が冷める流れを一層加速させかねない状況となっている」(P143-144)

結論を言えば、この「吉村チャンポン」は、酸、苦、甘、辛、鹹の五味あいまって、アジアを噛みしめられる「招牌菜」(スペシャル料理)だ。千円札1枚出してこの味は贅沢である。

エムディエヌコーポレーション
発行日:2021年4月6日
240ページ
価格:980円(税込み)
ISBN:13-978-4295201243

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