GWに読んでおきたい「ニッポンの書棚」お薦めの10冊

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極力外出を控えなければならないご時世だからこそ、自宅で有意義な読書の時間を過ごしたい。本サイト「ニッポンの書棚」では、毎月、多くの書評をお届けしている。ここに紹介する10冊の書籍は、いずれも評者お薦めの作品ばかりだ。激動の時代を乗り切っていくヒントが発見できるかもしれない――。

●閉塞した時代にこそ発想の転換が必要だ。われわれはどう生きるべきか。

1. コロナ時代をどう生き抜くか:姜尚中著『生きるコツ』

マスメディアで活躍する古希を迎えた政治学者が、「コロナ時代」をどう生き抜くか、「老いてなお興味津々」の日々を送るための「生きるコツ」を伝授する。著者は還暦を迎えたときに運転免許を取り、遅ればせながらゴルフも始めた。いまでは妻とともに軽井沢の高原にある中古の家に移り住み、自然環境と農作業を楽しむ日々を送っている。不確実な世界を生き抜くキーワードは「無心」であり、「『あれもこれも』いいとこ取りの構えを捨てて、『あれかこれか』の二者択一しかないことを肝に銘じて、苦境に立ち向かうこと」が必要であるという。

毎日新聞出版
2020年11月30日発行
1100円(税込み)
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●バブルからコロナ渦まで世相はこう変遷していった。タクシー運転手の目線で見てみると――。

2. 車窓から見つめる社会:矢野隆著『いつも鏡を見ている』

著者はタクシー運転手の経験をもつノンフィクション作家。本書は1970年代からバブル時代を経て、2020年のコロナ渦までの世相の移り変わりを運転手目線で描くとともに、彼らの流転の人生を紹介する。自己破産の末、有り金を握りしめて上京した、ホステスと恋に落ちた、タクシー会社を転々とする等々、そこには様々な人間模様がある。バブルの頃、釣りはいらないと1万円を出す客がいれば、缶ビールにつまみを用意し顧客を獲得する「居酒屋タクシー」、コロナになると1日の売り上げは1万円にも満たない。違った目線で過去を振り返る1冊。

集英社
2020年10月15日発行
1760円(税込み)
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●医療現場の崩壊の危機とはいかなるものなのか。米国の事情からわれわれは学ぶべきである。

3. 120万人の孤独な死:大内啓、井上理津子著『医療現場は地獄の戦場だった!』

本書は、米国ボストン在住の日本人医師による新型コロナウイルスとの戦いの記録である。昨年1月に西海岸のシアトルで最初の感染者が出てまもなく、著者が住む東海岸でも中国人留学生の感染が確認された。2月下旬には一気に住民まで拡大。3月には著者が勤務する病院で「研究は一切ストップし、100パーセント臨床に入れ。これまでの倍、働け」との緊急指令が下される。感染の恐怖にさらされながら奮闘する医師たちと、院内感染など医療現場が崩壊していく様は壮絶。米国の医療事情がよくわかる。日本も同じ道をたどるのか――。

ビジネス社
2020年10月21日発行
1540円(税込み)
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●衆議院解散総選挙とはいかなるものか。その歴史と経緯を詳しく知りたい。

4. 戦後政治の生々しいドラマ:仁田山良雄『検証 衆議院解散』

10月の任期満了までに衆議院の解散総選挙があるのかどうかが焦点になっている。著者は衆議院事務局に35年間務めた国会の生き字引的な人物で、本書は戦後の解散総選挙史の決定版である。憲法上、解散とはどういう権限に基づくものなのか。解散にはその時代の政治情勢や世相を反映したネーミングが冠せられる。吉田内閣の「バカヤロウ解散」、中曽根内閣の「死んだふり解散」、小泉内閣の「郵政解散」などの経緯が綴られる。解散を表す「紫のふくさ」とは何か、なぜ議員は「万歳三唱」するのか、豆知識も盛りだくさん。

印刷・製本デジタルパブリッシングサービス
2021年2月22日発行
4598円(税込み)
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●いまそこにある危機とはなにか。最新兵器で変わるアジアの軍事情勢とは。

5. 最新の軍事情勢を可視化する:能勢伸之著『極超音速ミサイルが揺さぶる「恐怖の均衡」』

軍事の世界では、米ロ中などが新型兵器「極(ごく)超音速ミサイル」の開発競争を繰り広げている。軍事情勢に詳しいジャーナリストが解説する本書は、中国が一歩先を行く最新兵器の脅威と、それに直面する日本の危機を知るには必読の書である。極超音速とはマッハ5以上を意味し、そのミサイルは軌道を変更しながら、しかも低空を飛ぶことができるため、レーダーをかいくぐりやすい。現状の弾道ミサイル防衛システムでは探知や迎撃が難しいという。南シナ海と台湾への野心を隠そうとしない中国に対し、日米はどう対峙していくのか。北朝鮮も変則軌道ミサイルを保有しているとの分析も不気味である。

扶桑社新書
2021年2月1日発行
968円(税込み)
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●宇宙はファンタジーだけでは語れない。いまそこで何が起こっているのか。

6. いまや「戦闘領域」となった宇宙の安全保障:青木節子著『中国が宇宙を支配する日 宇宙安保の現代史』

内閣府宇宙政策委員会委員を務める著者が、戦後、米ソの核搭載ロケットの開発競争から始まる宇宙の安全保障の歴史をわかりやすく解説する。いまや、中国は両超大国を凌ぐ勢いで「宇宙覇権」を目指しており、世界で唯一の暗号解読不可能な量子衛星の打ち上げ成功、他国衛星の攻撃実験や監視するための「ストーカー衛星」の打ち上げなど、数々の実例を挙げて警鐘を鳴らす。戦後、米国と日本の宇宙政策はどう変遷してきたか。米軍は宇宙軍を設立し、昨年、自衛隊にも宇宙作戦隊が創設された。今後は宇宙版日米同盟が強化されていくことになる。

新潮新書
2021年3月20日発行
836円(税込み)
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●廃炉の現場ではどのような作業が行われているのか。そこには困難に立ち向かう人々がいる。

7. 福島第一原子力発電所で働く人々:稲泉連著『廃炉「敗北の現場」で働く誇り』

東日本大震災から10年、福島第一原発(イチエフ)の廃炉作業はさまざまな困難に直面し、計画は後ろ倒しになっている。そも、現場ではどのような作業が行われているのか一般には想像できない世界だ。被爆の恐怖と戦いながら瓦礫の撤去、核燃料の取り出しに従事する建設会社の技術者から、作業員を運ぶバス運転手、事務棟で食堂を切り盛りする女性らバックヤードで働く人々など。災害後に東京電力に入社し、イチエフに配属された若者たちは、何を考えているか。大宅賞作家が丹念にインタビュー取材を重ねた渾身の現場ルポである。

新潮社
2021年2月15日発行
1760円(税込み)
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●マイナーなスポーツであるからこそ、心温まる物語が紡がれる。

8. 優しいルーザー(負け組)たちのプロレス愛:林育徳著『リングサイド』

気鋭の若手台湾作家が描く本作は、プロレスをめぐる10の短編からなる心温まる物語。登場するキャラクターは、家庭に問題がある、仕事がうまくいかない、彼女ができないなどいずれも「負け組」の人々だが、彼らの心の中でプロレスがひとつの希望になっている。台湾では深夜にケーブルテレビで日米の昔の試合が放映され、それなりにファンがいるそうだ。本作の白眉は台湾の文学賞を受賞した「おばあちゃんのエメラルド」。リングで不慮の死をとげた日本のレスラー三沢光晴をテレビで応援する老女と孫のコミカルな作品である。台湾社会にかかわる記述も多く、台湾ローカル好きにも十分楽しめる作品である。

小学館
2021年2月24日発行
1980円(税込み)
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●プロ野球の草創期、伝説に秘められた悲しい生涯を掘り起こす。

9. 不世出の天才投手は、なぜ野球を憎んだか:太田俊明著『沢村栄治 裏切られたエース』

伝説の天才投手沢村栄治は3度目の入営の日、父親に「職業野球の世界は、俺にとっては過酷でありすぎた。一介のサラリーマンでもいい。もっと堅実な方向へ進むべきだった」と言い残し、戦場で散った。本書は沢村の知られざる短い生涯を掘り起こした感動のノンフィクションである。彼は、慶應大学への入学の内諾を得ていたが、貧しい家庭事情で職業野球に身を投じるしかなかった。7人兄弟の長男である栄治は、馬車馬のように投げまくり、給料の大半を仕送りしていたが、2度の出征で、戦場での手榴弾投げで肩を壊し、巨人軍から解雇された。彼は「私は野球を憎んでいます」と書き遺している。

文春新書
2021年1月20日発行
1155円(税込み)
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●コロナ渦で行けないけれど、いつかは訪ねてみたい料理店。

10. 長崎を象徴する一品の魅力と歴史:陳優継著『ちゃんぽんと長崎華僑 美味しい日中文化交流史』

いまでは街のどこでも見かける「長崎ちゃんぽん」。一見、中華料理のようだが、実は日本で生まれている。料理の名前の由来は何か。本書は、長崎中華街の伝説的人物の子孫が明かすちゃんぽん誕生秘話だが、そこには日本と中国の食文化交流の面白さがある。そもそもは、1892年(明治25)に福建省から長崎に着いた18歳の陳平順(著者の祖父)が、行商で稼いだ資金で26歳のときに創業した中華料理店「四海楼」の一品として、ちゃんぽんは考案された。料理の描写は食欲をそそる。同店には斉藤茂吉や坂口安吾ら文化人も訪れ、いまでも代表的な店として大勢の客で賑わっている。コロナ渦がおさまったら行ってみたくなるはずだ。

長崎新聞新書
2009年10月7日
1257円(税込み)
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バナー写真:読書しながら寛ぐ(PIXTA)

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