【新刊紹介】中国、北朝鮮の脅威から日本を守ることができるのか:岩田清文・武居智久・尾上定正・兼原信克著『自衛隊最高幹部が語る 令和の国防』

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平和な国ニッポンは、戦後、リアルな軍事の議論を避けてきたために、いま重大な脅威にさらされている。本書は、数年前に退官したばかりの陸幕長、海幕長、航空自衛隊補給本部長と元内閣官房国家安全保障局次長ら軍事に精通した最高幹部の座談会をまとめたもの。日本の国防の脆弱性が浮き彫りにされる。

著者らの共通認識は、米国の核の傘なくして、日本が中国や北朝鮮の侵攻を抑止することは不可能だということである。ことに習近平の中国は、南シナ海、尖閣諸島、台湾を本気で狙っていると考えておかなければならないが、日米同盟側には、いまだにまとまった東南アジア戦略がないと指摘する。それは何故か。

アメリカが中国との戦闘を本気で想定するようになったのは、2017年以降、ほんの数年前の話であり、「本当に中国と戦う戦略を練り上げ、実際にその態勢を作り上げているかというと、出来ていない。」
アジアでの現状は、中国優位にミリタリーバランスが変わりつつあり、「今、中国とアメリカが戦ったら、シミュレーションではほとんどの場合、アメリカが負ける」という。
グレーゾーンでの戦いは、平時である今も続いている。中国は南シナ海の島嶼を実効支配し、滑走路建設など着々と軍事化を進めているが、「それを止めようと思っても、なかなか有効な手段はない」のが現実である。

台湾有事の際には日本も巻き込まれる。中国は軍事と非軍事的手段による「ハイブリッド戦」によって、尖閣諸島の自衛隊施設、空港、港湾を無力化する方法を採る。しかし、宇宙・サイバー、電磁波などの新しい戦争領域やハイブリッド戦に対する日本の対応能力は十分ではない。
むしろ近年が危ない。今後、アメリカの台湾支援が強化されるとすれば、人民解放軍は「待っていると状況が悪化するなら早いほうがいい」と考えるだろう。台湾に軍備の備えはあるものの、「1200発を超える弾道ミサイル攻撃と空爆に耐えるのは非常に難しいと言わざるを得ません。」

米中衝突となれば、中国は無人機など自律型ロボット兵器を多用する。
「中国は大量の無人機を群れのように運用する攻撃で米空母を襲う非対称の作戦を構想しています。米軍は、中国のこのような戦略に対抗するため、AIなどの新興技術を活用した装備の導入や複数領域をネットワーク化する変革を進めていますが、この動きはさらに加速化すると思います。実は、この部分は自衛隊が非常に遅れているところなので、今後の大きな課題だと思います」

我が国にとっての北朝鮮の脅威は、ノドンミサイルと10万人以上いるといわれる特殊部隊の存在である。有事に文在寅の韓国は当てにできない。
北朝鮮は、極超音速滑空ミサイルをもつ。北九州と中国地方に届く600キロの射程をもち、低高度をマッハ5以上、変則的な軌道で飛翔するのでレーダーに捕捉されない。自衛隊にはこれを迎撃できる装備は存在しない。
朝鮮有事では大量の難民が日本に渡ってくると予想されるが、難民に偽装した特殊部隊員が紛れ込んでくる。彼らは日本国内で米軍基地や社会インフラの破壊活動を行うであろう。さらに、弾道ミサイル搭載潜水艦による核の第2撃能力を備えようとしていることも重大な脅威だ。

ロシアについての指摘も興味深い。
「ロシアはオホーツク海の聖域化を狙っています。この海底にワシントンを射程に収める新型弾道ミサイル『プラヴァ』が発射可能な原子力潜水艦を、現在2隻、ゆくゆくは4隻配備して核抑止力維持のための第2撃の核戦力を確保しようとしている。この潜水艦を守るために千島列島にさらに1個師団を置き、地対艦ミサイルを並べて、米軍がオホーツク海に入ってこられないようにしている。だから、この千島列島防衛ラインにある北方領土を返すなんてことは、軍事的にありえない」

日本には、こうした脅威を想定した備えがないし、具体的な議論もなされていない。政府首脳は軍事に暗く、防衛省、自衛隊の組織内にも問題がある。日本はアメリカのお仕着せの装備を場当たり的に購入しているだけで、自衛隊には装備を自前で修理する能力もなく、それを支える日本の防衛産業は先細りになっている。有事の際に、政府は国民を守ることができるのか。

新潮社
発行日:2021年4月20日
新書版:271ページ
価格:902円(税込み)
ISBN:978-4-10-610901-0

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