【新刊紹介】代替医療の闇を斬る:岩木一麻著『がん消滅の罠 暗殺腫瘍(しゅよう)』

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「このミステリーがすごい!」大賞を5年前に受賞し、テレビドラマ化された医療ミステリーの続編。国立がん研究センターなどで研究に従事した著者が、がん患者を食い物にしていると言われる「代替医療」の闇に迫った作品である。

首都圏でいくつかのクリニックを経営する医師Sが、埼玉県の山中で、元大学准教授の医師、真栄田(まえだ)によって惨殺されるシーンから始まる。その後も医師が殺害される事件が続く。河川敷では腹部が切り開かれて、それにカラスが群がり、鳥葬を思わせる光景だった。

一方、保険会社では、もし余命6カ月以内と診断されたら、生前に死亡保険金を受け取れるリビングニーズ特約で、多額の生前給付金を受け取り、しばらくするとがんが消えるという“奇跡”が4件も続いていた。誰かが「人工がん」を操り、保険金の不正受給をしているのか。

この事件の真相を、日本がんセンター医師や、高校時代からの親友の保険会社調査部課長たちが追いかけ、真栄田に迫っていく。

警察は捜査線上に浮かんだ真栄田の事情聴取を行った。真栄田は埼玉の山中で殺されたSの病院に、「ニセ免疫療法を即時中止するように」と求めたことを認めた。

そして、真栄田は自分がアメリカ留学中に、妊娠と乳がんがわかった妻が1人で苦しみながら、副作用が少ない最新免疫治療などと宣伝するSの病院に行き、「切らなくても治せる」とうそをつかれて手遅れの状態になり、亡くなったことを告げた。真栄田のDNA型鑑定が行われたが、事件現場のものとは一致しなかった。

厚労族の国会議員が「言うことを聞かないと、がんで命を落とす」と脅迫される事件も起きる。後で明かされるが、要求は国会審議で、エビデンスのない民間代替医療などに対する規制と罰則を強化することだった。

著者は、藁にもすがる思いでクリニックを受診する末期患者が、怪しげな独自療法で数百万円、時には一千万円以上の高額治療費をむしり取られている実態を告発している。

初めに事件の主犯がわかっていながら、本書は最後までハラハラドキドキの場面が続く。そんな中で、「代替医療を考える会」代表の腫瘍内科医の怒りを込めた言葉が印象に残る。

「日本の医療技術は国際的にみても高いものですが、一方で代替医療は野放しに近い状態です。
 アメリカ人の友人は、アメリカでそんなことをすれば訴訟を起こされるし、場合によっては医師免許をはく奪されると言っていました。別の海外の友人には、日本では医師個人の思いつきによる人体実験が、患者の経済負担で行われているのかと驚かれました」

宝島社
発行日:2021年7月23日
301ページ
価格:1650円(税込み)
ISBN:978-4-299-01811-3

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