【新刊紹介】封印されていた現代史の秘話を紐解く:岡部伸著『第二次大戦、諜報戦秘史』

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大英帝国は「卓越した情報収集と正確無比な分析力」すなわちインテリジェンスによって世界を支配した。その伝統を脈々と引き継いだ英国情報部は、日本の真珠湾攻撃を事前に察知し、ソ連の対日参戦で合意した「ヤルタ密約」の正当性を疑っていた。本書には、先の大戦にまつわる秘話が7章に分けて収録されており、いずれも興味深いものだ。

英国立公文書館では、秘密指定を解除された政府の公文書が毎年公開され、歴史の「真実」を物語る貴重な「文書」に触れることができる。産経新聞論説委員の著者は、そこから数々の秘話を発掘する。

英国情報部は、日本の真珠湾攻撃を察知していた。それは英国が操る二重スパイからもたらされた情報だったが、米側は黙殺した。さらにチャーチル首相とルーズベルト大統領の膨大な往復電報を調べていくと、

「・・・英米首脳は戦争を回避するより、日本に先制攻撃させるように追い詰め、開戦へ誘導したと見られる形跡がある。」

日本軍は、開戦からわずか70日間でシンガポールを陥落する。マレー作戦は、現地に張り巡らされた日本の諜報網による工作活動で成功に導かれたものだ。現地の英国防諜組織は日本の南方進出を察知していたが、チャーチルは日本を「イギリスに対抗する財力も工業力もちあわせていない弱国で、軍事的脅威ではない」と過小評価していた。なぜ、貴重なインテリジェンスは生かされなかったのか。

日本に降伏を勧告するポツダム宣言は、天皇制の存続を明言していなかった。軍部は徹底抗戦を主張。天皇の聖断によってようやく終戦となるが、天皇は国体が護持されると確信していたのか。公文書館には、英国が傍受し、暗号解読した日本外務省の極秘電報の資料が残っている。2つの中立国、アイルランドとアフガニスタンの公館から本国に送られた緊急電には、「国体護持は可能」とあった。その情報は、どこからもたらされたものなのか。

ヤルタ会談で、ルーズベルト、チャーチル、スターリンとの間で「密約」がかわされた。それはソ連の対日参戦の見返りに、南樺太と千島列島の割譲を確約したものだった。いまでもロシアは、この密約を北方4島領有の最大の根拠としている。公文書館には、このヤルタ密約の「草案」原本がある。そこには南樺太はソ連に「返還される」、千島列島は「引き渡される」と記されている。その違いは何を意味するのか。当時の英国外務省は、密約の法的正当性を疑っていた。

秘められた日本の諜報活動を裏付ける「文書」を可能な限り探し、読み解くことが、日本のインテリジェンス復活の一助になる。

と、著者は記す。歴史の発掘は、われわれに思いがけない教訓を与えてくれる。

PHP研究所
発行日:2021年9月28日
新書版:227ページ
価格:990円(税込み)
ISBN:978-4-569-85044-3

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