【新刊紹介】核ミサイルの射程にある日本の危機:太田昌克・兼原信克・高見澤蔣林・番匠幸一郎著『核兵器について、本音で話そう』

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唯一の被爆国である日本は、戦後、リアルな核抑止の議論を避けてきたために、いま重大な脅威にさらされている。中国、ロシア、北朝鮮は核兵器の能力を飛躍的に向上させており、わが国は核ミサイルの射程内にあるのだ。本書は、核政策に深くかかわってきた内閣、自衛隊、メディアの専門家による座談会をまとめたものだが、門外漢にもわかりやすい核問題の解説書になっている。

核抑止をめぐる状況は大きく変わった、という現状認識が座談会の出発点である。かつては「先に撃っても、その後で絶対にやられるから核戦争はできない」という「相互確証破壊」のロジックから、米ロは合理的な判断で核使用を避け、核軍備の管理と軍縮を進めてきた。しかし、その理屈がもはや通用しない。

ロシアは、戦術核と中距離ミサイルの開発を進め、プーチン大統領は「ロシアの死活的な利益が脅かされた場合は核を使う」と公言している。クリミア半島の併合や現下のウクライナ侵攻をみれば、戦術核の使用は差し迫った危機になっている。日本近海に目を向ければ、北方領土の軍事化に力を入れており、

その証拠が、最近の部隊の配置です。例えば地対艦ミサイルのバスチオンやバル、最新鋭の防空ミサイルを択捉島と国後島に配置したと発表しています。ロシアは近年、北方領土駐留軍の近代化を着実に進めています。

台湾併合とさらに南シナ海の領有をにらむ中国は、著しく戦力増強した結果、現在では「最小限抑止」から「確証報復戦略」へと転換し、米ロ並みのICBM(大陸間弾道ミサイル)、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)、戦略爆撃機の3本柱を備えるにいたった。

座談会では「核のリスクが潜在的に最も高いエリアは間違いなくこの東アジアです」と指摘される。欧州のNATO(北大西洋条約機構)軍が直接対峙するのはロシアだが、日本は最新鋭の中距離ミサイルを備えたロシア、中国、北朝鮮の核射程内にある。

北朝鮮は、すでに「原爆以上水爆未満」の核実験に成功しており、「核弾頭も30~40発程度保有しているとの分析がある」という。さらには短距離から長距離ミサイルまでの運搬手段の開発が進んでおり、座談会では以下の危機感が共有される。

今の北朝鮮は日米のミサイル防衛をも突破しうる核戦力を保有してしまった可能性が高い。

日本にとって差し迫った直接的な脅威は北朝鮮だし、彼らが核兵器を実戦配備していることについての危機感は持つべきだと思います。

自身がとことん追い込まれたと金正恩が感じた際に合理的な振る舞いがどこまでできるのか、そこは判然としません。

さらにはサイバー攻撃と宇宙の軍事利用によって、核抑止は揺らいでいる。こうした脅威をふまえて、日本はどう対処すべきか。最後におさめられた「日本の核抑止戦略」(第6章)と「核廃絶と不拡散」(第7章)の章が、本座談会のもっとも眼目とするところであろう。

日本は戦後、米国の「核の傘」に頼ってきたが、いざというときに米軍は助けてくれるのか。ならば日本の抑止力を高めるための方策はあるのか。敵基地攻撃能力をもつ長距離ミサイルは必要なのか。ドイツは非核国ではあるが、NATO加盟国として米国管理の核兵器の配備を認めている。日本も米国との核共有を考えるべきなのか。日本が核兵器禁止条約に加盟しないのはどうしてなのか。

座談会は、決してタカ派的な議論に偏るものではない。それぞれの施策についてメリット、デメリット、賛否を交え、「完全非核化の旗を下すことは決してないが、眼前に迫った核のリスクをどうやって管理し削減していくか」という点に意見が集約されていく。

政策当局間ではミサイル防衛と並んで核抑止の議論も進んできたと思います。ただ、世論との関係では、そうした議論を透明性を持った形ではできないという状況が今も続いている。そこをどう変えていくかということは、日本の課題ではないかと思います。

新潮社
発行日:2022年3月20日
新書版:272ページ
価格:946円(税別)
ISBN:978-4-10-610945-4

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