最優秀英訳賞に『少年と犬』(馳星周)のワッツ氏―グレイトブリテン・ササカワ財団

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グレイトブリテン・ササカワ財団は7日、日本文学の優れた英語翻訳者に贈る第1回「グレイトブリテン・ササカワ財団翻訳賞」の最優秀賞に、馳星周の『少年と犬』(The Boy and the Dog)を英訳したアリスン・ワッツ氏を選出した。賞金は3000ポンド(約55万円)。

この翻訳賞は、ササカワ財団が英作家協会の協力を得て、文学的価値と大衆性を兼ね備えた日本の長編小説を対象に創設。初回は、2022年4月~23年3月に英国で出版された英訳作品の翻訳者が候補となった。

受賞した『少年と犬』は、20年7月の直木賞受賞作。犬の「多聞(たもん)」は、東日本大震災(11年)で飼い主を失い、泥棒、娼婦、老人らさまざまな人と出会いながら、仙台、新潟、富山、滋賀、島根と旅する。最後の地となったのは熊本。ここで、東日本大震災のショックで言葉を失った釜石出身の少年に癒やしを与えるが、熊本地震(16年)に遭遇する。

審査員団は「原作の読者ならたちまち魅了され、ページをめくる指が止まらないような優れた作品を翻訳する際、一番難しいのは、読者の関心をそそるために、その作品の熱量や勢い、文化的な魅力をそのまま伝えるということだろう。ワッツ氏はその難行を見事にやってのけた」「美しくも哀しく、涙なしでは読めない。皆さん、ぜひハンカチを手元にこの素晴らしい翻訳を読みましょう」と賛辞を送った。

ワッツ氏は「日本語の英訳出版がかつてなく盛り上がっている今、この賞は、日本文学の多様性と、さまざまなジャンルで高い品質の翻訳を英語圏に届けようと日々努力している者たちを評価するものとして喜ばしい」とコメントした。

次点には、小山田浩子の仮題『屋根裏のいたち』(Weasels in the Attic)を訳したデビッド・ボイド氏と、川上未映子の『すべて真夜中の恋人たち』(All the Lovers in the Night)を共訳したサム・ベット氏とデビッド・ボイド氏が選ばれた。賞金は、各1000ポンド(約18万円)。

グレイトブリテン・ササカワ財団翻訳賞:受賞作品とノミネート作品

  • 少年と犬(2020年刊)(The Boy and the Dog
    • 英訳者:Alison Watts  *最優秀賞
    • 作家:馳星周
  • Weasels in the Attic(仮題『屋根裏のいたち』)
    *『ディスカス忌』『いたちなく』『ゆきの宿』の3短編(2012–14年)を訳者が長編として再構成した
    • 英訳者:David Boyd  *次点
    • 作家:小山田浩子
  • すべて真夜中の恋人たち(2011年刊)(All the Lovers in the Night
    • 英訳者:Sam Bett and David Boyd  *次点
    • 作家:川上未映子
  • 地球にちりばめられて(2018年刊)(Scattered All Over the Earth
    • 英訳者:Margaret Mitsutani
    • 作家:多和田葉子
  • 道化の華(1935年刊)(The Flowers of Buffoonery
    • 英訳者:Sam Bett
    • 作家:太宰治
  • 木洩れ日に泳ぐ魚(2007年刊)(Fish Swimming in Dappled Sunlight
    • 英訳者:Alison Watts
    • 作家:恩田陸

(原文英語)

バナー写真 © Natalie Thorpe

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