【書評】人を愛するということ:綿矢りさ著『激しく煌めく短い命』

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19歳での芥川賞受賞から20年余り、綿矢りさがテーマに選んだのは女性同士の恋愛。13歳で出会った2人の少女は、卒業式までお互いの心のすれ違いを繰り返し、離れた末に30代で再会する。2人の20年のストーリーで、著者が描く深淵(しんえん)なテーマとは──。

2004年に史上最年少で芥川賞を受賞した綿矢りさの最新作『激しく煌めく短い命』。634ページの大作のテーマに選んだのは、同性愛。そして舞台は、自身の出身地でもある京都だった。

久乃と綸(りん)という13歳の少女2人は、公立中学校の入学式で出会う。入学式でほどけた久乃の髪を、後ろに並んでいた綸が、手際よくポニーテールにまとめあげる。何気ない光景のはずが読者には印象的なエピソードとして刻まれるのは、2人のあいだに”何か“が起こる予感を詰め込んだ、その描き方だ。

最後に手は私のポニーテールの房を根元からつかみ、優しく下へおろして毛並みを整え、私の首筋には心地の良い鳥肌が立った。

優等生で地味な久乃と、勉強は苦手だが華やかでパッと目立つリーダー集団にいる綸。2人の中学生活を追う第一部は、予感の一文で読者をとらえ、中学生らしいかわいらしいエピソードと、中学生がまとう性的な気配との間を行き来しながら進む。

背筋をヒヤッとさせるリアリティ

同級生に気づかれないように、密かに、でも幸せに過ごしていた2人の関係は、周りの友人の、悪意のない、でもだからこそもしかしたらもっと質の悪いうわさ話によって、一瞬で粉々に打ち壊される。

そこからの切ない展開は、綿矢りさの真骨頂。これまでの作品でも、ふわっと幸せな展開に、背筋がヒヤッとするようなエピソードを差し込む印象が強い。その「ヒヤッ」は人間が生来持つ無邪気な残酷さや、現実のシビアさを反映しているからリアルであり、読み手を惹(ひ)きつけるのだろう。

気が付けばストーリーの中に入り込んで、すれ違う久乃と綸に意識を重ねて幸せを願っては、著者にこてんぱんに裏切られる。「そんな簡単に、この本を終わらせませんよ」とでも言うように。

第一部、入学式で出会った2人の最後の日は、卒業式。そしてそのあと、会うことはない。第二部で32歳になるまでは──。

「私が私と、闘ってるねん」

第二部もまた、著者は読者の期待に応えたり、軽やかにすり抜けたり、裏切ったりしながら進んでいく。そのなかで考えさせられるのは、なぜ本書のテーマが「同性愛」なのかということだ。

“普通”なら歓迎されるはずの、人が人を好きになるという行為が、相手が同性になった途端にネガティブに見られるだけでなく、当事者自身にも葛藤を引き起こす。

「他人の問題じゃない。私が私を、認められへん。私が私と、闘ってるねん。(中略)異常やもん、やっぱり」

「ずっと考えてた。一生に一度きりの人生で、私は、どんな風に生きたいんだろうって」

人を愛するとはどういうことなのか。自分は、どうありたいと思っているのか、どうあらねばならないと思い込んでいるのか。久乃と綸の生々しい感情に触れ、読者もまた、考えさせられずにはいられない。

著者はこの深さにたどり着こうとして、同性愛をテーマに選び、久乃と綸に13歳から旅をさせてきたのではないか。綿矢りさの真骨頂ここにあり、と改めて実感する。

『激しく煌めく短い命』

文藝春秋
発行日:2025年8月30日
四六判:640ページ
価格:2585円(税込み)
ISBN:9784163920092

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