【書評】その価値に気付いてないのは日本人:NHKスペシャル「新ジャポニズム」制作班著『世界はなぜ日本カルチャーに熱狂するのか』
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共感できて希望を与える漫画
日本の漫画=MANGAは、アメリカのコミックなどとは違い、独特の魅力があり、世界の各地で日本人が想像できない読み方をされている。
戦禍の続くウクライナでは首都キーウで、日本のアニメソングのコンサートが開かれた。現地の子どもたちは日ごろ警報が鳴って地下室に避難すると、タブレットやスマホに日本のアニメをダウンロードして見ている。ある母親は、「シェルターで過ごさざるを得なかった時、アニメのおかげで子どもたちはストレスを受けることが少なくなった。日本のアニメが本当に助けてくれた」と感謝していた。
世界で最もイスラム教徒が多いインドネシアでも日本の漫画は人気があるが、その中には厳しい戒律では罰せられるようなテーマや表現を扱った作品もある。ひそかな人気を集めているのが、男性同士の恋愛模様を描いたボーイズラブ(BL)の漫画だという。日本の漫画に影響を受けた人々が、現地で自分たちのBL漫画を描き出している。つまり、日本の漫画は読むだけの対象ではなく、新しい文化を生み出す創造の源にもなっているのだ。
貧困に悩まされるアフリカのジンバブエでも、2000年ごろから日本の漫画やアニメが広まり始めた。国営放送のサブチャンネルが開設されて、子どもでも楽しめ、安価で購入できた日本アニメの放送が始まった。人気を集めたのが『るろうに剣心』。幕末から明治初期を舞台に刀を駆使した激しいアクションが、ジンバブエの子どもたちを夢中にさせた。
少年の海洋冒険ロマンを描いた『ONE PIECE』は60を超える国・地域で翻訳され、全世界累計発行部数が5億部を突破。ジンバブエでも、自分たちの危険も顧みず、仲間を命がけで救おうとする主人公らに共鳴し、泣きながら読んでいる高校生がいた。
どうして、これほどまでにMANGAが世界で愛されているのか。日本文化を40年以上にわたり研究している米大学教授は「日本の漫画のキャラクターは現実的で(ハリウッド映画より)深みがある」と分析している。
また、ジンバブエの高校生はこんな指摘をしていた。「昔は日本というと、風変わりな遠い国だと思われていた。しかし今は違う。日本人は(貧困国の自分たちも)共感できて、希望を与えてくれる漫画のキャラクターを作っている」
世界に広がる日本食レストラン
世界にある日本食レストランは約19万店で、この10年ほどで3倍に急増した。その9割は、外国人が経営しているといわれる。「イラッシャイマセ!」と威勢のいい日本語で客を迎えてくれる“居酒屋”スタイルの店も今や珍しくない。
サウジアラビアの首都リヤド。世界各国のビジネスマンや観光客が集まる金融街に、ドイツ人シェフが世界展開する日本食レストランが24年にオープンした。定番の枝豆は少しピリ辛に、メニュー表には焼き鳥から、2万円を超す伊勢エビや和牛ステーキもある。
この経営グループは全世界に25の日本食レストランを構え、グループ全体の売り上げは約350億円。ドイツ人経営者が居酒屋に出会ったのは30年前、東京で高級レストランのシェフをしていた時だ。同僚に誘われて飲食するうちに、格式ばった高級レストランにはないものを見つけた。「うるさくて、人がたくさんいて、楽しい。日本の食文化は今どきのライフスタイルにマッチすると思いました」
日本食の土台を支える素材と技が、世界で広がっている。フランス料理の最高峰の名店で、フランス人が最もフランスらしいと認める料理にも、日本食が潜んでいた。料理のソースには、昆布とかつお節で取っただしが使われているのだ。
また、地元を代表する鮮魚店では、鮮度が落ちず、味もよく、身崩れしない「IKEJIME」(生け締め)の処理が採用されている。この生け締めで、これまで腐りやすいと敬遠されていた地元の魚がおいしい食材に一変したのである。
日本食文化を研究する大学教授は、「今、日本料理が世界中で与えている影響が大きいことは間違いない。100年前はフランス料理が世界の頂点とされたが、今、みんな(世界の料理人)がインスピレーション(ひらめき)を求めて日本に目を向けている」と語る。日本食が世界の料理を進化させていると評価された。
壊れたものに宿る新たな価値
職人の手仕事による「和のデザイン」も世界を魅了している。陶磁器の割れた部分を漆でつなぎ、金や銀の粉で彩色する「金継ぎ」は、室町時代に茶碗の修復のために生まれた技法とされる。壊れたものを捨てずに直すだけでなく、あえて傷を目立たせることに趣を感じさせる。
この技術を学ぶ教室がパリや、アメリカでも人気だ。ガラスのコップなど量産品でも金継ぎで修復すればユニークな作品となり、自分だけの唯一無二の存在に変身する。
金継ぎの精神はさらに深い意義がある。医療現場でけがや、病気の患者らに、割れてしまったものをつなぎ合わせた金継ぎを見せて、「心配するな、治ったら前より良くなる」と励ますこともできる。金継ぎは、悲しみに耐え、前に進む力を与えてくれるという。日本文化の研究者が病院から「金継ぎをテーマに話してほしい」と依頼されることもあるようだ。
外国には、日本人の目から見て、「あれは日本のものとは違う」と指摘したくなることもよくある。しかし、日本発の多彩なカルチャーが世界各地の実情に合わせて独自に進化している。
今から100年先の未来の日本人が熱中しているのは、もしかしたら“新ジャポニズム”が生み出してしまった新しい文化なのではないか。
本書の中の興味深い予想である。日本カルチャーの高い価値に気付いていないのは、日本人自身なのかもしれない。
