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『PLAY 25年分のラストシーン』:撮りためたビデオ映像を映画に? フランスの異才が過ぎ去った青春の日々をリアルにプレイバック

Cinema

フランス映画『PLAY 25年分のラストシーン』は、全編を「疑似的なプライベート動画」で成立させた、新感覚のラブストーリー。過ぎ去った青春の25年間を、自ら撮りためたビデオ映像で振り返るアラフォー男が、自分に何が一番大切かを再発見し、人生の後半戦に向けて新たな一歩を踏み出そうとする。1990年代から2010年代まで、各時代の映像と音を細部までとことんリアルに再現しながら、懐古と希望の物語を描いたアントニー・マルシアーノ監督にオンラインで話を聞いた。

人それぞれ、短いようで長い人生の間には、その後の生き方を決定づける重要な岐路がいくつかあるだろう。年を重ねて何かがうまく行かなくなると、ふと若かった頃を振り返りながら、あの日のあの時からやり直せたらいいのにと、考えることがあるかもしれない。

このような回想は、これまで多くの映画で描かれてきた。しかし、よく考えてみれば、そうして過去のある時点にさかのぼる映像は、遠い記憶の再現にしては、都合よく出来すぎている。

仲間と遊ぶ13歳のマックス(中央)とエマ(右端) ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR
仲間と遊ぶ13歳のマックス(中央)とエマ(右端) ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR

回想シーンに限らず、フィクション映画は、誰のものでもない超越的な第三者の視点によって成立している。それを逆手にとったのが、POV(point of view)と呼ばれる主観映像だ。登場人物が撮影しているカメラの視点によって描く手法で、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)をはじめホラー映画で多用されてきた。最近では『カメラを止めるな!』もこれにあたる。ドキュメンタリーを模したフィクションだ。

しかし、この手法にとって、さかのぼることのできる過去の時間には、おのずと限界がある。それをうまく解決したのが、『PLAY 25年分のラストシーン』のアントニー・マルシアーノ監督だ。25年分のビデオ映像を撮りためた人物を主人公にすることによって、主観映像で過去を回想する物語を描いた。

成績不振によるビデオカメラ没収期間が明け、撮影を再開する16歳のマックス ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR
成績不振によるビデオカメラ没収期間が明け、撮影を再開する16歳のマックス ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR

その設定はこうだ。ある少年が13歳になった誕生日に両親からビデオカメラをプレゼントされる。彼はその新しいオモチャに夢中になり、片時も手から離さず、日常の何気ない光景から、記念すべき場面まで、何年も飽くことなく、年がら年中カメラを回し続ける…。

こんな設定にすれば、少年が家族と過ごし、友だちとふざけ合い、恋をして、恋に破れ、成長して大人になり、やがて家庭を持つ、その年月をすべて「記録」として再生しながら振り返ることができる。そして彼は大人になったある日、自分の後悔の元となった時点へ場面を巻き戻し、そこからもう一度やり直そうと試みるのだ。

しかし、このアイディアを思いついたとして、それをリアルに見せることは、技術的にどこまで可能だろうか。そして、そのアイディアを使って、どんな物語にふくらませることができるだろう。マルシアーノ監督は、まさにこうした問題を乗り越えて、とことんリアルでありながら、夢いっぱいのドラマに仕上げてみせた。

徹底した「フェイクのリアル」の追求

リモート取材に応じるアントニー・マルシアーノ監督
リモート取材に応じるアントニー・マルシアーノ監督

監督に話を聞くと、そのリアルさを実現するまでに、気の遠くなるような工程があったという。まずはシナリオの段階で、なぜ主人公はいちいちカメラで人々の会話まで撮影するのか、彼自身がどう画面に登場するのか、その必然性や整合性を徹底的に検証した。

続いてキャスティングには9カ月かかった。主人公と親友の「悪ガキ3人組」には、1人の役につき、それぞれ14歳までの少年、22歳までの青年、そして24歳以降の大人と、3つの年代を演じる3人の俳優が必要だ。仲良し3人組の中で1人が合わず、その役を3人まとめて替えなくてはならない事態も生じたという。

仲間とつるみ悪さをする高校時代 ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR
仲間とつるみ悪さをする高校時代 ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR

「3人組」と常に行動を共にする紅一点で、主人公のマックスがひそかに思いを寄せるヒロインのエマについては、唯一、1人の女優が若い年代と大人の両方を演じた。監督がこう振り返る。

「エマ役にアリス・イザーズを起用すると決めてから、このアイディアで行くことになりました。彼女は実際の年齢よりかなり若く見えたので。本当は最初、13歳もできるんじゃないかと思ったくらいです。でも実際に男の子たちと並べたときに、眼差しやしぐさ、声などから、内面の年齢差がやっぱり見えてしまう。この案はあきらめて、一番若い役だけその年代の女の子を立てました」

学生時代のエマ(上)と大人になってから(下)をアリス・イザーズが演じる ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR
学生時代のエマ(上)と大人になってから(下)をアリス・イザーズが演じる ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR

カメラのリサーチには半年を要した。単に古いビデオカメラで撮れば、当時の映像が得られるかと思ったら大間違い。映画館での鑑賞に堪えるクオリティにしなければならず、撮影後の編集や調整が必要だからだ。古い機種を買い込んでテストしながら、同じ映像を最新のカメラで撮り、試行錯誤を重ねて古い映像に近づける方法を探していった。

何より大変だったのは、撮影と演技もホームビデオのクオリティに合わせることだ。すべてが普通の映画が求めるものの逆を行かねばならない。一般的な映画では、演者にとって、カメラはそこにないことになっている。それを覆し、あえてカメラ目線になったり、撮影者に話しかけたりと、映画の禁則を犯して、ホームビデオの特徴を出すのだ。行儀よく交互に話す会話など実際にはあり得ないから、わざとセリフが重なるようにする。カメラマンもまた、誰かがしゃべるとき、タイミングよくレンズを向けず、意識して少し遅らせなくてはならない。

何かと大人ぶる親友のマチアス(左)と初めてクラブに繰り出す16歳のマックス ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR
何かと大人ぶる親友のマチアス(左)と初めてクラブに繰り出す16歳のマックス ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR

「自分が子どもの頃に撮ったビデオを見直して、当時の音や映像が実際にどんなだったかを調べました。どのタイミングで録画ボタンを押し、ストップを押すか、どんな動きで撮るのか。そういう計算の下に、すべてを周到に仕組んでおいて、全部その場の思いつきで適当にやっているように見せるんです。つまり『ヘタ』を完璧に演出する。これは実際にやるとなると本当に大変でしたが、妥協せず徹底的にこだわりました」

盟友とともにブレイクするまで

©Philippe Quaisse / UniFrance
©Philippe Quaisse / UniFrance

アントニー・マルシアーノは1979年生まれ。映画監督になるまでがなかなかユニークだ。元はフランスのソニーミュージックでアートディレクターをしていたという。その後2007年、28歳のときに友人たちと「My Major Company」というインディーズのレーベルを立ち上げる。今やヨーロッパでは有名な音楽プラットフォームだ。クラウドファンディングで若いアーティストを売り出すビジネスモデルでフランスの音楽業界に革命を起こし、グレゴワールやジョイス・ジョナサンといったスターを生み出したことで知られる。

このように常に音楽と接する傍ら、寸劇や歌詞などを書いていた。その作品を形にするのは、古くからの友人で役者のマックス・ブーブリル。今回の『PLAY 25年分のラストシーン』で主役の「マックス」を演じている。こちらも今やフランスで絶大な人気を誇るコメディアンだが、当時の仕事はまだドラマやCMなどの端役(フランスではCMに有名俳優が出ることはまれ)が多かった。

彼が大ブレイクするきっかけとなったのが、マルシアーノと共同で作ったパロディ風のミュージックビデオだ。表面的には良質のラブソングやポップソングのスタイルを踏襲しながら、歌詞はダメ男の恋愛やセックスをテーマにしたジョークというパターンで、インターネットで配信された動画は爆発的な再生回数を記録した。

大人になったマックスを演じるマックス・ブーブリル ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR
大人になったマックスを演じるマックス・ブーブリル ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR

デビュー作と2作目で味わった天国と地獄

一躍有名になったブーブリルは、フランスの人気お笑い番組に出演し、多くの人気コメディアンと同じく一人舞台の興行で劇場を満員にできるスターの座を一気につかみ取る。こうしてマルシアーノはブーブリルとの共同作業を映画へと広げる構想を立て、脚本の執筆に着手することになる。それが初の監督作品『Les Gamins』(ガキども、日本未公開)だった。

「最初はマックスと一緒に何か書いては作っていただけで、どういう方向へ行くのかは分かっていませんでした。それが思いがけずヒットして、活動がテレビや舞台にまで広がった。じゃあ、次は映画の脚本でも書いてみるかと。もちろん監督をするつもりなんてなかったですよ。自分にはとても手の届かない、特別な人たちに限られた仕事だと思っていましたから」

脚本を書き上げると、ブーブリルの共演者として、有名コメディアンのアラン・シャバに白羽の矢を立てた。その大御所に、監督を誰にするか相談したところ、そこまでやりたいことがはっきりしているなら、他人に任せず、自分でやってみたらどうかと勧められたという。この一言が映画監督としてデビューするきっかけとなった。

マックスの父親役を演じるアラン・シャバと母親役のノエミ・ルヴォウスキー。ともにフランスを代表する名優だ ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR
マックスの父親役を演じるアラン・シャバと母親役のノエミ・ルヴォウスキー。ともにフランスを代表する名優だ ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR

自信はなかったが「何事にも始まりがある」と奮起してメガホンを取ったデビュー作は、160万人を動員する大成功を収めた。すぐに2作目のオファーが舞い込む。前作を大幅に上回る予算の『Robin des bois』(ロビンフッド、日本未公開)。ハンガリーのブダペスト郊外に中世都市の巨大なセットを組み、40人のスタッフと200人のエキストラを動かす、コメディとしては異例の大作だ。しかし興行的にも、映画としても失敗に終わったと振り返る。

「正直自分でも何を考えていたのか分かりません(笑)。よからぬ動機で引き受けてしまった。自分では気が進まない企画だったのに、周囲からはやったほうがいいと言われて、つい…。でも事実、映画を作る上で、いろんな勉強になったのは確かです。半年間、ブダペストという素晴らしい街に暮らせたことも含めて、貴重な経験でした。何よりよかったのは、これからは自分にとって意味があり、語るべき何かがある、そういう映画だけを作ろうと、心に決めるきっかけになったことです」

3作目『PLAY』は人生をやり直す物語

しかしこの「失敗」から立ち直るには、長い時間を要したという。

「不思議なことにその後、より多くのオファーが来ました。何でもやってくれそうなイメージを与えてしまったんですね。それらをみんな断って、今度こそ自分の中から生まれてくる物語を書こうと、じっくり取り組みました。なかなか進まずに2年半くらい経ったある時、ふと『PLAY』のアイディアを思いついたんです。そこからはあっという間に進みました。何を伝えたいか、どう語ったらよいか、自分で完璧に分かったんです」

マルシアーノ自身、自分のビデオカメラで何から何まで撮る少年だったし、劇中のさまざまなエピソードはブーブリルの実体験に負うものが多いという。2人で話し合いながら、自分たちの悪ガキ時代のいたずらや、意中の女の子をなかなかデートに誘えなかった思い出などを、ストーリーに盛り込んでいった。

マルシアーノ監督の盟友マックス・ブーブリル ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR
マルシアーノ監督の盟友マックス・ブーブリル ©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR

「自分たちが若いときに体験したことをスクリーンに映し、もう一度この目で見たいという欲求でワクワクしながら作業を進めました。一気に18歳に戻れて愉快な気分でしたよ。その反面、現実に戻ると、もう40歳なのかという感傷も、もちろんありました。でも同時に、この主人公の気持ちになって、希望も見出せたんです。40歳になってもまだ時間はある。その時その時を楽しんで、大切に過ごさなきゃいけないなって」

自分の信念に従って生きていこうという思いは、この3作目を撮り終えて、あらためて強く感じたことでもあるという。

「40代に入った今も、人生の行方はまだ何も決まっていないと思っています。その時々の行動によって決めていけると。そうするために必要なのは、勇気をもつこと、自分が欲するものを信じることです。僕は、これまでの人生でいくつかの仕事をしながらも、何か書かなくてはいけないと常に思ってきました。それである時、ほかのことをすべてやめ、書くことに集中してみた。それが今、こうして自分の新しい仕事になっているんです」

物語が展開する25年の間には、2001年にニューヨークで、2015年にパリで起きた同時多発テロの衝撃もあった。これらの場面も撮影したが、全体の明るいトーンにそぐわず、編集でカットしたという。そしてもちろん撮影当時、新型コロナウイルスで世界が一変することなど思いもよらなかった。マルシアーノ監督は、人々が元気を失った今こそ、この映画を観て希望を感じてほしいと話す。

「コミュニケーションがバーチャルな方法になって、人々が危険な形で二極化していますね。このほうがウイルスよりもずっと恐ろしいと感じます。でも僕は、この映画に描かれたようなコロナ以前の日常がまた戻ってくると信じています。今、僕たちは本当にむずかしい状況を生きていますが、家族や友だちとの絆、恋愛の力を感じながら、物事をポジティブに見ることが大事です。登場人物たちのように、ユーモアを暗い気分から抜け出す武器にしたいですね。人生は過ぎ去ってみないと分からないことだらけです。たとえ何かをやり損なったとしても、もう一度やり直してみよう、そんな希望が持てる映画になったと思います」

取材・文=松本 卓也(ニッポンドットコム)

©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR
©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR

作品情報

  • 監督:アントニー・マルシアーノ
  • 脚本:アントニー・マルシアーノ、マックス・ブーブリル
  • 出演:マックス・ブーブリル、アリス・イザーズ『エル ELLE』、マリック・ジディ 『ダゲレオタイプの女』、アルチュール・ペリエ、ノエミ・ルヴォウスキー 『カミーユ、恋はふたたび』
  • 製作国:フランス
  • 製作年:2018 年
  • 上映時間:108 分
  • 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
  • 配給:シンカ/アニモプロデュース
  • 公式サイト:https://synca.jp/play/
  • 新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA、kino cinéma立川髙島屋S.C.館ほか全国順次公開中

予告編

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