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柄本佑&金子大地が不倫劇の“修羅場”で対決? 映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』

Cinema

夫の不倫を知った人気漫画家が、それを作品に描いて報復する……!? そんな手に“冷汗”握る心理劇をユーモラスに綴った映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』。漫画を読んで動揺しまくる夫を演じた柄本佑と、妻が通う自動車教習所の教官に扮した金子大地が、コロナ禍の緊急事態宣言明け最初の撮影現場で味わった喜びを語ってくれた。

不倫をテーマに描くエンタメ心理劇

映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、2018年に『ANIMAを撃て!』で商業映画デビューを果たした堀江貴大監督の新作。個性豊かなオリジナル作品を次々と生み出している「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM(以下TCP) 2018」で準グランプリに輝いた企画を、自らの脚本・監督で映画化した。

人気漫画家の佐和子(黒木華)と、妻のアシスタントに甘んじる夫の俊夫(柄本佑) ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
人気漫画家の佐和子(黒木華)と、妻のアシスタントに甘んじる夫の俊夫(柄本佑) ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会

堀江監督は、2016年のTCPに応募して落選した後、どんな企画なら観客に楽しんでもらえるかを考え抜いた。その結果、エンタメ性を強く意識して、不倫というテーマを盛り込みつつ、普遍的な夫婦の愛を描けないかと思い至る。そこから「不倫した夫が妻にされて一番ダメージを受けそうな復讐方法は?」とアイデアを膨らませていった。

黒木華、柄本佑、金子大地、奈緒、風吹ジュンら魅力的な配役で映画化された作品では、劇中に登場する漫画を織り交ぜながら、嘘と本音が交錯する夫婦の攻防戦が展開される。

結婚5年目で気持ちがすれ違い始めた漫画家夫婦 ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
結婚5年目で気持ちがすれ違い始めた漫画家夫婦 ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会

金子 大地 監督がご自身で脚本を書き上げた作品に携われるのはうれしいですよね。読んでいてこだわりがすごく感じられました。いつかご一緒してみたかった佑さんや黒木さんとの共演も、楽しみで仕方がなかったです。

金子大地。1996年生まれ、北海道出身
金子大地。1996年生まれ、北海道出身

柄本 佑 オリジナル企画というと、ちょっと斜に構えたりしがちだと思うんですが、堀江監督が持つエンタメ感にとても興味が湧きました。非常にウェルメイドな偏りのない脚本。誰もがスッキリと楽しめるエンタテインメント作品を作ろうとしているところに、とても共感したんです。

柄本が演じる俊夫は、過去にヒット作を出した漫画家で、その後なかなか新作が描けずにいる。一方、妻・佐和子(黒木華)は売れっ子の同業者。俊夫はそのアシスタントを務めながら、あろうことか妻の担当編集者である千佳(奈緒)と密会していた。ある日、佐和子の新作原稿を目にした俊夫は、そこに自身の不倫の様子が事細かに描かれていることに驚愕する。

佐和子の描いた漫画を盗み見て「不倫がバレてる?」と青ざめる俊夫 ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
佐和子の描いた漫画を盗み見て「不倫がバレてる?」と青ざめる俊夫 ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会

さらに漫画のストーリーは、佐和子とそっくりな主人公が自動車教習所の若い教官と恋に落ちるという展開へ。単なる創作、それとも実話? すべては佐和子の妄想なのか、それとも俊夫の不貞を知った上での復讐なのか……。嫉妬と恐怖に震える俊夫は、やがて現実と漫画の境界が分からなくなっていく。

共演した黒木華の魅力

佐和子が通う教習所の「新谷先生」を演じるのは、金子大地。夫婦の複雑な関係に巻き込まれたような役回りだが、佐和子の立場に自身を置き換え、物語の設定についてこんな感想を口にした。

金子大地演じる新谷先生 ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
金子大地演じる新谷先生 ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会

金子 夫の不倫相手が自分の身近な人間というのは、ちょっと生々しすぎて嫌ですね。頭の中でいろいろ妄想して、どんどん嫌な気持ちになってしまうので。「不倫するならまったく知らない相手と、絶対に気付かれないようにやってくれ!」と思ってしまいますね(笑)。

柄本 もし自分が女性で、不倫された側だったとしたら、それまでと何も生活を変えないままマウントをとっていくみたいなことは、いくつかある選択肢のひとつとしてあり得るかも(笑)。でも、実際に不倫された人のことを考えたら、この映画どころの騒ぎじゃないでしょうね。

黒木華が演じる佐和子は、口数が少なく表情からも本心が読み取りにくい女性。その謎めいた様子に、相手は知らず知らず想像を膨らませていく。

柄本佑。1986年生まれ、東京都出身
柄本佑。1986年生まれ、東京都出身

柄本 佐和子の得体の知れなさ、次にどんな行動を起こすのかわからない不可思議な感じは、黒木さんご自身の雰囲気とピッタリだったような気がします。「あれ? 俊夫ってどんな感じだっけ?」と自分の役柄に一瞬迷いそうになっても、黒木さん演じる佐和子を見ていれば、自然と不安が襲ってくる。この「謎の生物」にリアクションをしていれば、おのずと俊夫になれるという感覚でしたね(笑)。

黒木華演じる佐和子 ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
黒木華演じる佐和子 ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会

金子 黒木さんは本当にミステリアスな方なので、その表現は説得力がありますね。僕たちは教習所の先生と生徒という間柄もあって、割とセリフもガチガチに決まっていて、マニュアルに沿って運転を指導するところは特に難しかったです。だからと言って常に緊張感あふれる現場だったかというとそうでもなく、割といろんな話もさせていただいて。撮影前に僕が勝手に抱いていたイメージとは、だいぶ印象が変わりました。

撮影現場のリアルな熱気が伝わるシーンの数々

見せ場の一つは、妻の不倫を疑い始めた俊夫が佐和子の運転する教習車を尾行し、“安全運転”でカーチェイスを繰り広げるシーン。そのほかにも車中の場面は多く、それぞれが物語の進展に重要な役割を果たしている。

親し気に話す佐和子と新谷を遠くから俊夫が盗み見る ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
親し気に話す佐和子と新谷を遠くから俊夫が盗み見る ©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会

柄本 車中のシーンは、あらかじめ監督の頭の中で撮りたい画(え)がキッチリ決まっていたこともあって、非常にシステマティックに効率よく進んでいたから、あまり記憶に残っていないんです。むしろ現場はあっさり終わったのに、出来上がりを観たら「こんなシーンだったのか!」と驚いた部分もあるくらい。現場ではどこにいるんだかわからないくらいの雰囲気の監督なんですけど、完成した映画はまさに脚本通りの印象だったので、ああ見えて確信のもとに必要な画を現場でしっかり撮り切っていた。“策士”ですね!

佐和子の担当編集者で俊夫の不倫相手の千佳(奈緒)(左)と、娘を心配しながらも優しく見守る佐和子の母・真由美(風吹ジュン) ©2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』 製作委員会
佐和子の担当編集者で俊夫の不倫相手の千佳(奈緒)(左)と、娘を心配しながらも優しく見守る佐和子の母・真由美(風吹ジュン) ©2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』 製作委員会

映画の終盤近くには、風吹ジュン扮する佐和子の母・真由美が住む実家のリビングで、佐和子と俊夫ばかりでなく、担当編集者の千佳や、新谷教官まで一堂に会すという、いわゆる“修羅場”が用意されている。

金子 みんなが勢ぞろいするシーンは、一番自由度が高くて、すごく面白かったという印象がありますね。

柄本 段取りでは、僕と恋敵?である金子くんは離れた場所に座るはずだったんですが、なんとなく交通整理がうまくいっていない感じがあって、「試しにあっち側に座ってみてもいいですか?」と座り位置を新谷先生の隣に変えた途端、一気にシーンが動き出したんです。黒木さんには「あ、そこ座るんだ!」と言われましたけど(笑)。

金子 僕は役柄的に「もしかすると妄想かもしれない」というところまで振り切る必要があったので、あえて含みを持たせたりせず、基本的にはナチュラルな演技を心がけました。台本を読んだ時点である程度イメージは湧いていたのですが、実際に旦那さんたちを目の前にしたときのお芝居は、自分としてもすごく自然にできたような気がします。

柄本 僕が「先生の隣に座ってもいいですか?」(笑)と提案した形になったけど、今から考えると、あれは間違いなく監督の演出だった。監督は何も言わずに役者から言うように仕向けていたんですね。ずるいなあと思うけど、ある意味それはすごく監督らしい振る舞いであるなと。脚本という揺るぎない地盤があったからこそ、監督がどうにかしてくれると安心していろんな芝居を試せた感じがするんです。

脚本を緻密に練り上げ、念入りにカット割りを決めて撮影に臨んだ堀江監督だが、現場では俳優たちが「楽しんで演じる」自由度も重んじた。その役者たちが、台本を読み込んで現場に入り、演じ手の感覚に従って自然に動いた結果、すべて監督の狙い通りになっていたというのだから、それぞれが映画作りの醍醐味を味わったに違いない。それでも現場は柔らかい雰囲気に包まれていたという。多くのスタッフやキャストにとって、一番目の緊急事態宣言が明けて最初の撮影だった。

金子 コロナ禍でずっとお芝居したいなあと思っていた時期の撮影だったので、本当に楽しかった。

柄本 現場でみんなが顔を突き合わせて「ああでもない、こうでもない」と言いながら、作品を作り上げていく面白さをあらためて感じました。各部門のスタッフに見守られながら芝居をする緊張感と、一つずつ課題をクリアしていって、最後にみんなで完成した作品を試写室で観たときの達成感。劇中で描かれる漫画のように、デジタルだけでは成し得ないリアルな緊張感を伴うアナログな作品づくりの楽しさを再確認させてもらえた作品でした。

金子 こういう時期だからこそ、皆さんに楽しんでいただける作品になっていると思います。どんな結末になるのか展開がまったく読めないところが、僕が思うこの作品ならではの面白さ。皆さんも最後の最後まで気を抜かず、楽しんでいただけたらうれしいです。

インタビュー撮影=花井 智子
取材・文=渡邊 玲子

©2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』製作委員会
©2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』製作委員会

作品情報

  • 監督・脚本:堀江 貴大
  • 劇中漫画:アラタ アキ 鳥飼 茜
  • 出演:黒木 華 柄本 佑/金子 大地 奈緒/風吹 ジュン
  • 音楽:渡邊 琢磨
  • 主題歌:「プラスティック・ラブ」 performed by eill
  • 配給:ハピネットファントム・スタジオ
  • 製作国:日本
  • 製作年:2021年
  • 上映時間:119分
  • 公式サイト:https://www.phantom-film.com/watatona/
  • 9月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

予告編

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