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映画『ミス・シャンプー』:笑い納めと初笑い、台湾発・ドタバタ恋愛コメディのすすめ

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とんでもなく軽やかで、やたらとバカバカしいロマンティック・コメディがNetflixにやってきた。台湾映画『ミス・シャンプー』は、日本版リメイクも製作された大ヒット作『あの頃、君を追いかけた』(11)のギデンズ・コー監督による最新作。たくさん笑ってほろりと泣ける、これぞ年末年始にふさわしい一本だ。

ある嵐の夜、町のヘアサロンにヤクザの男・タイが転がり込んできた。謎の刺客にボスを殺され、自らも狙われたタイは、追手をかわして隠れ場所を求めていたのだ。美容師見習いのフェンに匿われて難を逃れたタイは、命の恩人となった彼女に一目惚れをする。舎弟の男たちを連れ、今度は客としてサロンに訪れるやフェンを口説き落とそうとするのだった。

ふたりはたちまち惹かれ合うが、ごく普通の家庭で育ったフェンに対し、タイは少年時代から極道の世界しか知らない身。しかも、タイは殺されたボスの後継者として、刺客の正体と黒幕を突き止めねばならなかった。情熱的に燃え上がる恋と、裏社会の陰謀が絡み合うとき、ふたりの恋はどんな結末を迎えるのか……?

タイはフェンを指名するが、彼女はまだまだ実力不足(Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信)
タイはフェンを指名するが、彼女はまだまだ実力不足(Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信)

ハイテンション、しかしちょっぴり切ない恋

映画『ミス・シャンプー』は、小説家・映画監督のギデンズ・コーによる長編第4作。自身の短編小説を映画化した本作は、原題を『请问,还有哪里需要加强』(日本語で「かゆいところはございませんか?」)という。台湾では2023年6月に台北映画祭のオープニング作品として上映されたのち、7月に劇場公開。日本では10月の東京国際映画祭で上映され、約2ヶ月後にNetflixでの配信開始となった。

長編監督デビュー作『あの頃、君を追いかけた』で高校生の甘酸っぱい恋愛を描き、第2作『怪怪怪怪物!』(17)では衝撃の学園ホラーを撮り、どちらも大きな支持を受けたコーは、第3作『赤い糸 輪廻のひみつ』(21、詳細は後述)を経て、この『ミス・シャンプー』で徹底的にハイテンションなドタバタコメディをつくり出した。荒唐無稽な展開とギャグの波状攻撃は、ほとんど悪ノリとしか言えない領域にまで到達する。

東京国際映画祭のために来日したコーは、観客とのQ&Aにて、製作当時の心境が本作のハチャメチャぶりに反映されたことを明かしている。

「初監督作『あの頃、君を追いかけた』は、僕自身の高校時代の体験に基づく映画でした。2作目の『怪怪怪怪物!』は、僕自身がプライベートで女性に二股をかけたことが問題になり、世間の人々に嫌われたことがテーマ。興行成績も最低で、僕への懲罰だったと思っています。しかし、『赤い糸~』が大ヒットして、皆さんに許してもらえた気がしました。その嬉しさがそのまま表れたのが『ミス・シャンプー』です。おかげで申し訳ないことに、ドタバタの作品になってしまいました」

恋するヤクザ、タイの舎弟たちも全員個性たっぷり(Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信)
恋するヤクザ、タイの舎弟たちも全員個性たっぷり(Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信)

コーの繰り出す笑いはとことんストレートだ。情熱的だがちょっとバカで可愛げのある男たちの会話、恋する男女の繊細だがユーモラスな駆け引き、環境や身分の違いを誇張したギャグ、子どもの「ごっこ遊び」のように遊戯的なデフォルメ、そして露骨なまでの下ネタなど……。日本の漫画に大きな影響を受けたと公言するだけあって、そのテンションは少年誌のギャグ漫画にも近い。

もっとも、そのストレートさが恋愛描写に振れるとエモーショナルに、ホラーやサスペンスに振れるとスリリングになるのがギデンズ・コー流。本作ではラブストーリーとコメディ、任侠もの、スリラーを大胆にミックスしながら、鮮やかなストーリーテリングで観る者を引き込み、大量のギャグで笑わせる。日本でいえば宮藤官九郎作品にも近い振り切れた作風は、日本と台湾の文化の違いもあっさりと乗り越え、物語に没入させてくれるはずだ。

楽しいぶんだけキャラクターへの愛着が湧き、そのぶん切なくなる。たっぷり笑わせたあとに泣かせるのは、いわばロマンティック・コメディの王道だ。どれだけハイテンションにふざけても、またどれだけ下品でも、本作はあくまでも王道をひた走るのである。コーは「エッチなシーンや暴力的な場面もありますが、僕は結局、“愛は偉大だ”ということを描きたかったのです」と語った。

くだらなさの中に顔を出すピュアな恋心が愛おしい(Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信)
くだらなさの中に顔を出すピュアな恋心が愛おしい(Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信)

コメディもシリアスも自在、台湾の魅力的な俳優たち

ギデンズ・コーの王道精神を支えるのは、彼の紡ぎ出す世界観と物語を体現する俳優陣だ。ヤクザの男・タイ役は、台湾の人気ヒップホップユニット「玖壹壹(ナインワンワン)」のダニエル・ホン。長編映画初主演とは思えない堂々たる演技で、恋愛・コメディ・アクション・サスペンスのすべてを担い、“台湾のアカデミー賞”こと金馬奨の新人男優賞にノミネートされた。コーいわく、タイは「こんな男は両親に絶対紹介したくない」キャラクター。しかしながら、キャスティングの決め手はホンの人となりだったという。

「彼はどこか野獣めいた、独特の気質がある人です。話し方や人間そのものに魅力があり、たとえヤクザのような喋り方をさせても愛嬌があって可愛らしい。どれだけ監督が演技を指導したにせよ、それは決して教えられるものではありません」

もうひとりの主人公、美容師見習いのフェンを演じたのは、『私の少女時代 Our Times』(15)などの人気女優ビビアン・ソン。コーの前作『赤い糸~』に続き、全幅の信頼を受けて早くも主演再登板となった。はつらつとしたキュートさはもちろん、過激なジョークも爽やかに演じて映画全体を牽引する。ギデンズ・コー作品のミューズと呼ぶべきクー・チェンドンも、タイの右腕となる幹部役として主人公を支えながら、時には見せ場をかっさらった。

ヒロインをとことんキュートに、また美しく撮るのもギデンズ・コー流だ(Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信)
ヒロインをとことんキュートに、また美しく撮るのもギデンズ・コー流だ(Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信)

ほどよく肩の力を抜いて楽しめる、これぞ年末年始にふさわしいエンターテインメントだ。下ネタがややハードなので「家族全員で楽しんで」とは言いにくいが、悪ノリも笑い飛ばせる仲間やパートナーと観るにはうってつけだろう。ネタバレは避けるが、お正月に観るといっそう楽しめる仕掛けもある(もっとも台湾でも夏の公開だったため、楽しみ方としてはやや邪道だが)。エンドクレジットが始まっても再生を止めず、最後の最後まで堪能してほしい。

なお余談だが、日本ではコーの前作『赤い糸 輪廻のひみつ』も劇場公開中(12月22日より全国順次ロードショー)。こちらはクー・チェンドン&ビビアン・ソンが織りなすファンタジー・ラブコメディだが、『ミス・シャンプー』とはかなりテイストが異なる。この『赤い糸~』は権利の都合上、ソフトのリリースや配信は予定されていないとのこと。配信と劇場でギデンズ・コーの世界を味わえる絶好の機会、ぜひお見逃しなく。

Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信
Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信

作品情報

  • 監督:ギデンズ・コー
  • 出演:ダニエル・ホン、ビビアン・ソン、クー・チェンドン
  • 製作年:2023年
  • 製作国(地域):台湾
  • 上映時間:120分
  • Netflixページ

予告編

動画提供:東京国際映画祭

バナー写真:Netflix映画『ミス・シャンプー』12月28日より独占配信

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