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映画『ゴールド・ボーイ』:岡田将生の怪演で魅せるクライム・エンターテインメント、中国の人気小説が充実の会話劇に

Cinema

「中国の東野圭吾」と呼ばれるミステリ作家・紫金陳(ズー・ジンチェン)の人気小説が日本で映画化された。主演・岡田将生、監督・金子修介による『ゴールド・ボーイ』は、物語の舞台を沖縄に置き換えた、アジアの空気を濃厚にまとう頭脳戦のクライム・エンターテインメントだ。

沖縄有数の巨大企業・東ホールディングスの会長夫婦が、海に面した崖の上から落ちて死亡した。現場に同行していたのは娘婿の東昇(岡田将生)だけで目撃者はいない。警察は捜査の結果、会長が服用していた薬の副作用でめまいを起こし、支えようとした妻もろとも転落した事故死と判断した。

ところが、海岸にいた3人の少年たちが撮影した映像には、会長夫婦が同行者に崖から突き落とされる様子が映り込んでいた。13歳の安室朝陽(羽村仁成)と、友人の上間浩(前出燿志)、その義理の妹・夏月(星乃あんな)は、写真を撮ろうとしていたところ、偶然にも事件の決定的瞬間を記録してしまったのだ。

東ホールディングスは、かつて政府や政治家と結託して巨財を築いたと噂される一族の企業であり、死亡した会長も軍用地投資で儲けたとされる富豪だ。転落死のニュースを知った朝陽は、映像を証拠として昇から大金をゆすり取ろうと考える。金さえあれば、母とふたり暮らしの朝陽にも、家族から離れて行き場のない浩と夏月にも、違った未来の可能性が開かれるかもしれない──。

物語を動かしてゆく少年少女。若手3人のフレッシュな演技が映える ©2024 GOLD BOY
物語を動かしてゆく少年少女。若手3人のフレッシュな演技が映える ©2024 GOLD BOY

中国のベストセラー小説、沖縄を舞台に翻案

原作は中国のサスペンス/ミステリ小説をけん引する人気作家・紫金陳の『坏小孩』 (悪童たち)。2020年には本国で『バッド・キッズ 隠秘之罪』としてドラマ化されるや、総再生回数20億回(※iQIYI JAPAN調べ)を記録するほどの社会現象となった人気作だ。

もっとも原作小説と『バッド・キッズ 隠秘之罪』は、「少年たちが殺人事件の瞬間を記録してしまう」というコンセプトこそ同じだが、ストーリー展開やキャラクターの設定が大きく異なる。ドラマ版は全12話という長尺を活かし、登場人物の心理を原作以上に掘り下げた脚色で高く評価された。

その一方で『ゴールド・ボーイ』は、紫金陳が執筆した原作小説『坏小孩』(悪童たち)の映画化として構想されたものであり、本来の物語に忠実かつ、要所に独自の解釈を加えた作品となった。原作とドラマの存在は知っている……という海外小説・ドラマファンにとっても、小説の本質をぎゅっと凝縮したような本作は格好の入門編と言えるのではないか。まずはこの映画を観てから、あとで原作とドラマの語り口を堪能するのも楽しい物語体験になるはずだ。

江口洋介演じる刑事・東厳。原作の名は厳良。ドラマ『バッド・キッズ 隠秘之罪』ではなんと少年たちのひとりとして脚色されている ©2024 GOLD BOY
江口洋介演じる刑事・東厳。原作の名は厳良。ドラマ『バッド・キッズ 隠秘之罪』ではなんと少年たちのひとりとして脚色されている ©2024 GOLD BOY

監督を務めたのは、日本映画界で長年のキャリアを誇る金子修介。実写版『デスノート』(06)『デスノート the Last name』(06)以来、久々にアンモラルな頭脳戦・心理戦のクライム・エンターテインメントに挑戦することとなった。なにしろ殺人犯の東昇を追いかけるのは、証拠映像をエサに彼を脅迫する少年たちなのである。

昇と朝陽たちは、世間の常識や倫理を蹴り飛ばしながら、ひたすら目的に向かって突き進む。人々の思惑が錯綜するプロットは悲劇的で血なまぐさいが、沖縄の街や自然は原作の世界観に重なるアジアの空気をまとっており、柳島克己の撮影もあいまって、全編がどこかカラリと乾いたトーンになっているところが興味深い。

悲劇に巻き込まれてゆく昇の妻・静(松井玲奈) ©2024 GOLD BOY
悲劇に巻き込まれてゆく昇の妻・静(松井玲奈) ©2024 GOLD BOY

岡田将生ら俳優陣が魅せる会話劇

映画に唯一無二の個性を与えたのは、何をおいても東昇に扮(ふん)した岡田将生の怪演だ。倫理観に大きな欠陥のある殺人鬼でありながら、少年少女に翻弄されていら立ち、喜怒哀楽をはっきり示すキャラクター性には、ほとんどコメディすれすれのユーモラスさもある。同じく金子監督の『デスノート』で夜神月を演じた藤原竜也を思わせるような、サスペンスを自らの力で強烈に引っ張るカリスマ性とパワフルさが光った。

岡田将生の目から光が消え、凶暴性がむき出しになる瞬間の恐ろしさ ©2024 GOLD BOY
岡田将生の目から光が消え、凶暴性がむき出しになる瞬間の恐ろしさ ©2024 GOLD BOY

共演者たちの演技も目を引く。岡田と正面から対峙する朝陽役の羽村仁成は、膨大な台詞(せりふ)を的確に操り、冒頭とラストシーンでは別人のごとく変貌する振れ幅を見せた。ヒロインの夏月を演じた星乃あんなも、少女の純粋さと残酷さ、そして内心の葛藤をにじませて、ともすればコミック的になりかねない頭脳戦に青春映画らしい詩情をもたらしている(終盤、ホテルの屋上で朝陽と夏月が言葉を交わすシーンは中学生同士の恋愛映画としての名場面だ)。

また刑事・東厳役の江口洋介、朝陽の父・一平役の北村一輝も、それぞれの人間味と渋さによって人間ドラマに大人の厚みを加えた。登場人物がひたすら喋りつづける会話劇である本作では、彼らサブキャストも含めた俳優陣の芝居対決こそが最大の見どころだ。

エネルギッシュな主要人物と対照的に、北村一輝の抑制された演技も印象に残る ©2024 GOLD BOY
エネルギッシュな主要人物と対照的に、北村一輝の抑制された演技も印象に残る ©2024 GOLD BOY

本作は日本の商業映画とあって、原作の内容をそのまま再現しなかったと思われるシーンもあれば、上・下巻からなる原作を約2時間に圧縮する以上、やむなくシンプルに処理された部分や、人物像の多面性が失われた側面もある。あえて言えば、演出面でやや作り込みの緩い箇所もなくはない。

それでも日本のサスペンス映画ではなかなか見られない熱量と味わいを楽しめるのは、中国の人気ミステリ小説に基づくユニークな物語の強度と、原作の世界に通じる(そして日本の本土では見られない)沖縄の風景、よく練られた演技のアンサンブルがバランスよく融合したからだ。むろんこれらは、日本のキャスト&スタッフと国際的なプロデュース陣によるコラボレーションだからこそ実現したこと。中国の原作をただ日本で映画化したわけではない、独特の風合いが映画自体の魅力である。今後もアジアと日本のパワフルな共同作業が継続的に行われることを期待したくなる一作だ。

©2024 GOLD BOY
©2024 GOLD BOY

©2024 GOLD BOY
©2024 GOLD BOY

作品情報

  • 出演:岡田 将生 黒木 華 羽村 仁成 星乃 あんな 前出 燿志 松井 玲奈 北村 一輝 江口 洋介
  • 企画:許 曄 
  • 製作総指揮:白 金(KING BAI)
  • 監督:金子 修介
  • 原作:小説「坏小孩」(悪童たち)by ズー・ジンチェン(紫 金陳)
  • 脚本:港 岳彦
  • 撮影:柳島 克己(J.S.C)
  • 製作国:日本
  • 製作年:2024年
  • 上映時間:129分
  • 公式サイト:https://gold-boy.com/
  • 2024年3月8日(金)全国公開

予告編

バナー写真:映画『ゴールド・ボーイ』。主演の岡田将生(左)、羽村仁成 ©2024 GOLD BOY

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