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2019年4月のおすすめ映画

Cinema

混乱の世をばくちで生き抜こうとする青年。振り向いてくれない彼に会うためなら恋敵だって利用する女子。他人の願いを叶える代わりに法外な行動を要求する男。牧師の父に入れられた矯正施設から逃げ出すゲイの息子…。人々の行動の背景にあるさまざま動機や決意を感じ取って、新しい時代の一歩を踏み出したい。平成最後の月に公開の映画から4本をピックアップ。

麻雀放浪記2020

戦後の焼け野原で麻雀に全てを賭けて生きる男たちを描き、人気を博した小説『麻雀放浪記』。「昭和最後の無頼派」と呼ばれた直木賞作家、色川武大(1929-1989)が阿佐田哲也名義で書き、1984年に和田誠監督の手で映画化された作品が、平成の最後になって近未来を舞台にリメイクされた。昭和の雀士(じゃんし)が2020年にタイムスリップしてAI搭載アンドロイドを相手に「麻雀五輪」で死闘を繰り広げる、という仰天の設定。鬼才・白石和彌監督が痛快なブラックコメディーに仕上げた。

©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

すでに高い評価を受け、熱烈なファンも少なくない作品の再映画化だけに、スタッフ、キャストとも相当なプレッシャーを感じたことが想像できる。それをはねのけるには並々ならぬ熱量で現場に臨んだに違いない。気迫が画面から伝わってくるようだ。出演者のピエール瀧がコカイン所持容疑で逮捕され、公開が危ぶまれたが、多くの人々が情熱を注いだ労作を封印しなかったのは英断だった。

昨今では珍しく、宣伝らしい宣伝がなかった作品ながら、全編iPhoneで撮影したという大胆な試み、いわゆる「きれいな顔」の出てこない濃厚な個性が勢ぞろいするキャスト陣、と興味をかき立てる要素には事欠かない。だが、何といってもこの作品の魅力は設定の妙だろう。小説を原案として人物設定に取り入れながら、その登場人物たちが放り込まれる時代と状況の設定は、突き抜けた想像力の産物と感嘆するほかない。奔放に展開するストーリーでありながら、実社会のさまざまな歪みが戯画化され、観客の心に突き刺さってくる。

映画を見終わって劇場を出ると、目の前に広がる街の風景が、斎藤工演じる未来へやってきた昭和人の目に映った世界と重なって見える。私たちの多くは、目まぐるしいスピードで移ろう時代から置き去りにされているのだ。お仕着せの価値観に従って急いで判断するのではなく、魂の欲するものにじっくり耳を傾け、勝負の一瞬に渾身(こんしん)の一手を打てばいい、そんなメッセージが聞こえてきそうな映画だ。平成が昭和の残り香を漂わせたまま終わろうとする今だからこそ見ておきたい。

©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

作品情報

  • 出演=斎藤工、もも(チャラン・ポ・ランタン)、ベッキー、的場 浩司、岡崎 体育、ピエール瀧、小松 政夫/竹中直人
  • 原案=阿佐田 哲也(文春文庫刊)
  • 監督=白石 和彌
  • 脚本=佐藤 佐吉、渡部 亮平、白石 和彌
  • 企画=アスミック・エース 
  • 制作=シネバザール 
  • 配給=東映
  • 製作年=2019年
  • 公開日=2019年4月5日
  • 上映時間=118分
  • 公式サイト=http://www.mahjongg2020.jp/

予告編

愛がなんだ

©2019『愛がなんだ』製作委員会
©2019 映画『愛がなんだ』製作委員会

これもまた直木賞作家の小説を映画化した作品。角田光代が2003年に発表した恋愛小説が原作だ。28歳の会社員・テルコ(岸井ゆきの)は、友人の結婚パーティーでマモル(成田凌)と偶然知り合い、仕事などどうでもよくなってしまうほど夢中になるのだが、一方でマモルはテルコを都合のいいときに呼び出す相手としか見ていない。テルコはそれを痛いほど思い知らされながらも、マモルを追い続け、会えるのならどんな状況も受け入れる。

最近よくある恋愛映画かと思って見ると、いい意味で裏切られる。ストーリーは恋愛の成就をゴールにしていない。そもそも恋愛の成就とは、恋の終わりの始まりでもある。たとえ交際が実を結んで結婚に至ったとしても、それはもう恋愛とは明らかに違う次元への移行でしかない。この映画の登場人物たちは、どうやら恋に行方などないことをとっくに知っているようなのだ。それゆえ、相手のことを知ろうとか、相手に自分を理解してもらおう、などとは考えない。ラブコメディは常にすれ違いがあるから面白いのだが、この作品は荒唐無稽なシチュエーションで笑わせるのではなく、いかにもありそうな悩みを、独特の感性をもつ登場人物たちを通して描いていく。

角田光代が1967年生まれ、監督の今泉力哉が1981年生まれと世代は違うが、どこか通じ合う感覚があるらしい。そして二人ともこの作品を手掛けた時期はほぼ同じ30代後半だった。これをもっと若いイマドキの人が見ると、どう感じるのか興味がある。ひょっとすると原作者や監督の世代以上に、共感を抱く部分を見つけられるような気がする。恋愛は面倒とまで言う若者たちに、感傷的にならなくていい失恋の仕方もあると勇気を与えてくれそうな映画だ。

©2019『愛がなんだ』製作委員会
©2019 映画『愛がなんだ』製作委員会

©2019『愛がなんだ』製作委員会
©2019 映画『愛がなんだ』製作委員会

©2019『愛がなんだ』製作委員会
©2019 映画『愛がなんだ』製作委員会

©2019『愛がなんだ』製作委員会
©2019 映画『愛がなんだ』製作委員会

作品情報

  • 出演=岸井 ゆきの 成田 凌 深川 麻衣 若葉 竜也 片岡 礼子 筒井 真理子/江口 のりこ
  • 原作=角田 光代「愛がなんだ」(角川文庫刊)
  • 監督=今泉 力哉
  • 脚本=澤井 香織、今泉 力哉
  • 配給=エレファントハウス
  • 製作年=2019年
  • 上映時間=123分
  • 公式サイト=http://aigananda.com/
  • 4月19日(金)、テアトル新宿ほか全国公開

予告編

ザ・プレイス 運命の交差点

©2017 Medusa Film SpA.
©2017 Medusa Film SpA.

アメリカでヒットしたテレビドラマ『The Booth 欲望を喰う男』を、カフェを舞台とするワンシチュエーション劇にリメイクしたイタリア映画。本国では2017年に公開され、その週末の観客動員数トップを記録した。 

カフェでたまたま隣り合わせた二人組の会話の断片が耳に入ってきて、あれこれ想像をふくらませてしまった、なんてことは誰にでもあるだろう。この映画の観客は、スクリーン越しにそんな体験へと入っていく。ただしテーブルを挟んで向かい合う二人のうち一方は常に決まった男。彼は決して席を立つことはなく、相手だけが次から次へと入れ替わっていく。

男は相手にそれぞれ異なる指示を出す。それは指令のようだが、相手は拒否することもできる。ただしその代わり、拒否をすればそこで終わり。実行しないなら、望みがかなうのを諦めなくてはならないのだ。強い願いを抱いて彼のもとを訪れた人々は、なかなか諦めることができず、立ち去っては引き返してくる。彼が実行を迫る難題にどんな意味があるのか?観客は少ない情報から人物と出来事を線で結び、想像力を駆使して背景を探ろうとするのだが、やがていくつもの線が交錯し、混線してくる。

人は皆、さまざまな願望を抱き、それを実現しようと努めたり、諦めたりしながら生きる。常に何らかの行動を選択し、時にそれが他人の運命をも左右する。誰にも結果を完全に予期することはできないし、正しい判断かどうかは後になってみなければ分からない(後になっても分からないことさえしばしばある)。だからこそ、あるとき突拍子もない指令が天から降ってきても、決して驚いてはいけないのだ。

©2017 Medusa Film SpA.
©2017 Medusa Film SpA.

©2017 Medusa Film SpA.
©2017 Medusa Film SpA.

©2017 Medusa Film SpA.
©2017 Medusa Film SpA.

©2017 Medusa Film SpA.
©2017 Medusa Film SpA.

©2017 Medusa Film SpA.
©2017 Medusa Film SpA.

作品情報

  • 原題=The Place
  • 出演=バレリオ・マスタンドレア、マルコ・ジャリーニエットレ、アルバ・ロルバケル
  • 監督=パオロ・ジェノベーゼ
  • 原作=クリストファー・クバシク
  • 脚本=パオロ・ジェノベーゼ、イザベル・アギラル
  • 製作=マルコ・ベラルディ
  • 配給=ミモザフィルムズ
  • 製作年=2017年
  • 製作国=イタリア
  • 上映時間=101分
  • 公式サイト=http://theplace-movie.com/
  • 4月5日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

予告編

ある少年の告白

©2018 UNERASED FILM, INC.
©2018 UNERASED FILM, INC.

アメリカ南部の田舎町に生まれ育ったジャレッド(ルーカス・ヘッジズ)は、大学生になって自分が同性愛者であることにはっきりと気付く。ある出来事をきっかけに両親に打ち明けると、厳格な牧師の父(ラッセル・クロウ)は教会関係者と相談した結果、息子を「転向療法」(コンバージョン・セラピー)を実践する施設へと送り込む。若者の「ゆがんだ」性的指向や性認識は「治療によって矯正できる」との考えに基づくそのプログラムは、入所者たちの人格を否定し、断罪する狂信的なものだった。

原作は作者が19歳のときに受けた実体験を基に書かれた回想録。実はアメリカでは、カリフォルニアなど16の州とワシントンDCを除く34州でいまなお科学的根拠のない転向療法が禁じられておらず、東海岸のニューヨーク、ニューハンプシャー、マサチューセッツ各州ですら今年に入ってようやく禁止されたというから驚きだ。これまでにおよそ70万人がこの療法を経験し、うち約半数が未成年だったという。その影響で、鬱(うつ)やトラウマに苦しみ、自ら命を絶った若者も少なくない。

セラピーの陰惨さもさることながら、この映画でまざまざと思い知らされるのは、親子の関係もセクシャル・マイノリティーにとって大きな悩みとなり得ることだ。これは何もここに描かれたアメリカのキリスト教福音派の家庭に限った話ではない。親が子に結婚して子供をつくってほしいと願うのは当然のこと、などと簡単に口にしてしまうが、それは時にひどく残酷な言葉として響く。三省堂の「新明解国語辞典」(第5版)の「愛」の項に、「親子の愛=子が親を慕い、親が子を自己の分身として慈しむ自然の気持」という記述があるのを見つけて、思わず笑ってしまった。この映画はそんな「自然の気持」と闘った家族の物語だ。

©2018 UNERASED FILM, INC.
©2018 UNERASED FILM, INC.

©2018 UNERASED FILM, INC.
©2018 UNERASED FILM, INC.

©2018 UNERASED FILM, INC.
©2018 UNERASED FILM, INC.

©2018 UNERASED FILM, INC.
©2018 UNERASED FILM, INC.

©2018 UNERASED FILM, INC.
©2018 UNERASED FILM, INC.

作品情報

  • 原題=Boy Erased
  • 出演=ルーカス・ヘッジズ、ニコール・キッドマン、ラッセル・クロウ、ジョエル・エドガートン、グザヴィエ・ドラン、トロイ・シヴァン
  • 監督・脚本=ジョエル・エドガートン
  • 原作=ガラルド・コンリー
  • 音楽=ダニー・ベンジー、サウンダー・ジュリアンズ
  • 撮影=エドゥアルド・グラウ
  • 配給=ビターズ・エンド、パルコ
  • 製作年=2018年
  • 製作国=アメリカ
  • 上映時間=115分
  • 公式サイト=http://www.boy-erased.jp/
  • 4月19日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!

予告編

文=松本 卓也(ニッポンドットコム多言語部)

バナー写真:©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

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